法律相談

月刊不動産2013年4月号掲載

いわゆる買取仲介についての問題点

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社は土地建物の所有者甲から売却の依頼を受けていますが、このたび購入希望者乙があらわれました。当社が甲から買い取った上で、乙に売却するという取引を行っていいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答

     甲から土地建物を買い取った上で乙に売却するという取引形態をとるべきではありません。

    2.いわゆる買取仲介について

     さて、本来は宅建業者が仲介として取引に関与しているのに、法律的な形式として、宅建業者が所有者からいったんその物件を購入し、それを購入希望者に売却する形式をとることがあります(いわゆる買取仲介)。決済の確実性やリフォームの取扱いなどを考えると、宅建業者の購入価格と売却価格の差額が適正である限り、このような形式をとったからといって、直ちに違法であるということはできないでしょう。

     しかし、宅建業者の仲介報酬は、宅建業法によって、厳格な規制を受けます。宅建業法の報酬規制の適用を回避するためこのような行為を行うことは、許されません。

     今般、いわゆる買取仲介に関する裁判例が公表されました(福岡高裁平成24年3月13日判決)。福岡高裁は、宅建業者に対して、仲介として関与したならば取得できる報酬額を超える金額について、損害賠償義務があるという判決を下しています。

    3.裁判例

    (1)事案

     X は、その所有する土地建物(本件物件)を売却したいと考え、宅建業者Y の関与の下、本件物件を1,500万円で売却することとしました。一方、これと並行してYは、本件物件の購入者を探したところ、Xの隣人であるB が本件物件を2,100万円で購入することとなりました。

     そこで、Y は、同一日に、X Y 間の売買契約(売買代金1,500万円、「本件売買契約」)およびYB 間の売買契約(同2,100万円、「転売契約」、本件売買契約と併せて、「本件取引」)を締結し、これにより、Y は600万円の差益を得ました。

     なお、XB 間で売買代金を2,100万円とする売買契約が締結され、Y がこれを媒介するとした場合、その報酬の上限は宅建業法46条1、2項により制限されているところ、その上限額は72万4,500円となります。

     Xは、Y に対し、宅建業法により制限される報酬額を超えた報酬の支払がなされたものであるとして、損害賠償を請求しました。

     この請求に対し、Y は、本件売買契約の利点として、(1)スピード(契約成立、決済までの期間が短縮できる。)、(2)確実性(即金一括払で、各種停止条件、解約等のリスクが低い)、③安心感(商品化するまでのコスト、労力等がなく、瑕疵担保責任等の売却後の紛争発生のリスクが低い)を挙げ、本件売買契約には合理性がある旨主張しましたが、裁判所はこれを認めず、Xの請求を肯定しています。

    (2)裁判所の判断

     裁判所は、『宅建業法46 条が宅建業者による代理又は媒介における報酬について規制しており、これを超える契約部分は無効であること及びYは宅建業法31条1項により信義誠実義務を負うことからすれば、宅建業者が、その顧客と媒介契約によらずに売買契約により不動産取引を行うためには、当該売買契約についての宅建業者とその顧客との合意のみならず、媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠を具備する必要があり、これを具備しない場合には、宅建業者は、売買契約による取引ではなく、媒介契約による取引に止めるべき義務があるものと解するのが相当である』とした上で、Yがこの義務に違反したと判断してXに対して損害賠償を認めました。

     なお、Y が主張するいわゆる買取仲介の合理性に関しては、(1)Xが売却の意向を示してから本件売買契約締結に至るまで半年以上が経過していること、(2)本件売買契約は、本件転売契約と同一日に行われており、これら契約締結がなされるまで、Y は本件売買契約を締結しない余地が残されていたこと、③本件売買契約には瑕疵担保責任の免除等、通常の売買契約と比較してXにとって有利な条項はなく、X B 間の売買契約とした場合と比較して、本件売買契約がXにとって有利といえる事情は見当たらないとし判断しています。

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