賃貸管理ビジネス
月刊不動産2026年4月号掲載
採れない時代に勝つ「育てる会社」のつくり方
代表取締役 今井 基次(みらいずコンサルティング 株式会社)
Q
当社は4,000戸を管理する中堅の管理会社です。以前から従業員教育プログラムがなく、そろそろ組織体制としても導入を検討しています。何かよいアドバイスをいただけますか?
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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まずは「全体像の設計」と「経験年数ごとの育成ステップ作り」から始めることをおすすめします。
賃貸管理業界では、人材確保がますます難しくなっています。応募数は減り、即戦力となる経験者も採りづらい状況が続いています。さらに、採用に成功したとしても、十分に育成できず離職につながってしまえば、再び採用コストをかけざるを得ません。これは多くの管理会社が悩まされている「負のスパイラル」です。
いま求められるのは、「育てる会社」へと変わることです。その姿勢を社外に示すことは、採用ブランディングにもなり、求職者にとっては「ここなら成長できる会社」として映ります。明確な育成ステップを持つ会社は、採用の段階から魅力があるのです。 -
自社の課題整理から始める育成設計
教育プログラムづくりにおいて最初に必要なのは、カリキュラムそのものではありません。まずは自社の「現状」と「なりたい姿」を照らし合わせ、何が不足しているのかを明確にすることから始まります。
たとえば、オーナー対応が属人化している、管理拡大の営業力が弱い、現場の判断が統一されていない、新入社員が早期に離職してしまうなど、会社によって課題は異なります。
賃貸管理の業務は多岐にわたり、社員全員が同じ経験を積めるわけではありません。だからこそ、「どの層に、どの能力が足りていないのか」を整理することが、育成設計のスタートラインになります。 -
経験年数×役割で構成する「セグメント別育成」
賃貸管理業務は、経験年数と役割によって求められるスキルセットが明確に変わっていきます。そこで、以下のように経験年数をセグメント化し、それぞれに沿った成長ステップを設計していきます。
1~2年目:新入社員
「全体像と役割」を理解する時期
この時期に最も大切なのは、賃貸管理の全体像を理解し、自分がどの部分を担うのかを知ることです。十分な説明もないまま現場対応をさせてしまうと、仕事が「作業」に見えてしまい、意義を感じにくくなります。
そこで新入社員には、管理会社が果たす役割やオーナーの目的、管理料と業務の関係性を丁寧に説明します。さらに、募集・建物管理・入退去・クレーム対応などの一連の業務フローを把握し、空室対策の基本となる考え方や、日常業務で使用する用語の背景も理解してもらいます。こうした基礎があることで、「なぜこの仕事をするのか」が腹落ちし、早期離職を防ぐことにつながります。3~6年目:中堅社員・主任
専門性が伸びる一方、離脱が増える「死の谷」この層は、経験が増え、ひと通りの業務をこなせるようになり、役職もつき始める時期です。しかし、責任と業務量が増える一方で、評価基準が曖昧だと不満が蓄積しやすく、離職が集中する「死の谷」と言われる時期でもあります。だからこそ、「役割と評価基準の明確化」が不可欠になります。
中堅社員には、不動産投資としての賃貸経営の視点や利回りの考え方、修繕判断や出口戦略などのオーナー視点を理解してもらいます。また、設備や建築に関する基礎知識、KPIの読み方と改善策、小さなチームを動かすマネジメントの考え方などもこの時期に求められる能力です。「専門性」と「小さなマネジメント」の両方が伸びる時期であり、この層が育つかどうかが、会社の中核をつくる重要な分岐点になります。7~10年目:ベテラン・マネージャー
組織の主軸となる時期
7年を超えると、現場感覚が身につくだけでなく、会社全体を見渡す視点が必要になってきます。業務効率化やマニュアルづくり、管理拡大の戦略設計など、組織として成長するための役割が増えていきます。
また、重要オーナーを担当する場面も増え、長期的な関係構築や提案力が求められます。事業計画や予算管理の理解、チームビルディング、プレゼンテーションスキルなども重要になります。この層が強化されることで、組織全体の推進力が一気に高まります。10年以上:幹部クラス
経営を支える視座が必要になる
10年を超えると、求められる役割は「現場の延長」ではなく、会社全体の未来を見据えた経営視点になります。会社全体の経営戦略づくり、人事評価制度の設計、次世代を育てるための教育体系構築など、大きな責任を担うようになります。
また、全国の成功事例を自社に落とし込み、ブランド戦略や採用戦略、重要なオーナーへの高度な提案など、会社の方向性を左右する場面も増えていきます。幹部自身が学び続けることで、組織全体の育成レベルも高まっていきます(図表)。 -
教育予算は「未来への投資」として確保する
教育費は削りやすい経費と思われがちですが、実際には、離職率の低下、採用コストの削減、オーナー満足度の向上につながる「投資」です。
自社ですべての教育を整備するのが難しい場合は、外部研修を活用するのも効果的です。ただし、一部の社員だけが参加しても社内に浸透しづらいため、会社全体が同じ方向を向く体制づくりが欠かせません。
管理会社が持続的に成長するためには、「採用 → 育成 → 定着 → 戦力化 → 幹部育成」という好循環をつくることが欠かせません。そのために、自社の課題整理、経験年数別の育成プログラム、教育予算の確保、他社ベンチマークの活用など、複数の取り組みを「仕組み」として整える必要があります。
人が育ち、辞めず、成長し続ける会社は、結果としてオーナーからの信頼も高まり、管理戸数の拡大にもつながってゆくのです。
