法律相談
月刊不動産2026年4月号掲載
公正証書のデジタル化
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
公正証書のデジタル化により、公証役場に赴かずに、自宅にいながら公正証書を作成できるようになったとききました。どのような仕組みができたのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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嘱託人からの申出があり、公証人が相当と認めた場合には、嘱託人が公証役場に行かなくても、ウェブ会議により、公証人や他の列席者と相互の状況を確認しながら通話する「リモート方式」によって、公正証書を作成できるようになりました。
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公正証書の意義
公正証書は、契約当事者や遺言者などの嘱託人から嘱託を受け、私人間の権利に関する事実について作成する文書です(公証人法1条1号)。私人から依頼されて作成される文書ではあるものの、公平で中立の立場に立つ公証人が作成することから、高い信用性のある文書と考えられています。公正証書によって契約内容が明確になり、将来の紛争を予防し、たとえ訴訟になっても重要な証拠となります。不動産の売買契約や賃貸借契約、金銭消費貸借契約、任意後見契約、離婚に際しての財産給付の取り決めなど、私人間の法律関係を規律するさまざまな場面で用いられますが、特に遺言を公正証書によって行うというのが、一般の方にとって身近な活用方法でしょう。
公正証書は、公証人が本人の意思を確認しながら作成しますので、これまでは、嘱託人が公証役場に赴くか、公証人に出張をしてもらわなければ作成できませんでした。しかし現代は、ネットを利用したデジタル社会になっており、法的な手続きも着実にデジタル化が進んでいます。公正証書の作成も、2025(令和7)年10月からデジタル化されました。 -
公正証書作成のデジタル化
公正証書のデジタル化により、嘱託人の申出があり、他の嘱託人に異議がなく、公証人が相当と認めた場合には、列席者が公証役場に行かなくても、ウェブ会議により公証人や他の列席者と相互の状況を確認しながら通話する方法(リモート方式)で、公正証書を作成できるようになりました。
紙で作成された公正証書原本は、公証役場で保管されますが、電磁的記録で作成された公正証書原本は、日本公証人連合会が運営するシステムの、それぞれの公証人が管理する領域で保存されます。この保存領域には、公正証書を作成した公証人および後任公証人等、その公証人の事務を取り扱うこととされた公証人ならびにこれらの公証人の書記のみがアクセスできることとされています。
公正証書の内容を証明するものとして、従来は正本、謄本が紙の文書として発行されていましたが、電磁的記録で作成された公正証書については、これらを従前どおり、公証人の署名押印がされた紙の文書として発行することも、公証人の官職証明書による電子署名が付された電磁的記録として発行することも可能です。これらが電磁的記録として発行された場合、PDFファイル閲覧ソフトで読み込むと、電子署名の真正性、有効性や、電子署名後に改ざんのないことが確認できます。 -
リモート方式の利用ができる場合
リモート方式の利用ができるのは、①嘱託人の申出があること、②通訳人、証人のみのウェブ会議での参加を除き、他の嘱託人の異議がないこと、③公証人が相当と認めることの全ての要件が満たされた場合です。
ウェブ会議方式での公正証書の作成が相当かどうかについては、その必要性と許容性とを総合的に勘案して判断することとされています。ウェブ会議方式での参加を希望する人が、心身の状況、就業状況、地理的状況等に照らして、公証役場に行くことが困難な場合や、嘱託人相互の関係から、嘱託人相互が同席することに問題がある場合、感染症予防等のため嘱託人がいる施設への立入が制限されている場合などは、必要性が高いと考えられます。
一方、許容性は、嘱託人の本人確認、真意の確認、判断能力の確認等を適切に行うことができるかどうかという観点から判断され、代理人による手続きが許容されるような場合には、許容性は高いと考えられますが、遺言、任意後見等、本人の意思の確認が重要なものについては、慎重に判断されることになります。
また、ウェブ会議中に、電子サイン等のための機材操作をする必要がありますので、そのような操作が困難な場合は、許容性に欠けると判断されます(以上、日本公証人連合会ウェブサイhttps://www.koshonin.gr.jp/notary/ow01) -
まとめ
公証役場に赴かずに公正証書を作成することができるようになったことによって、公正証書が利用しやすくなりました。ただ、リモート方式の利用を希望する場合にも、その要件が整っているか、リモート方式での公正証書の作成が相当かについて、公証人の判断が必要となります。宅建業者のみなさまにとっては、公正証書がデジタル化されたことを知っておくとともに、これから具体的にどのような場面でリモート方式を利用することができるのかを把握しておくことも求められます。
