賃貸相談
月刊不動産2026年1月号掲載
エレベーターの故障と賃料の全額不払い
弁護士 江口正夫(江口・海谷・池田法律事務所)
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A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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賃貸部分の個室へ直結するエレベーターが故障することは、賃貸目的物の一部使用収益不能であると考えられます。この場合、民法第611条1項によれば、賃料の減額は認められますが、あくまで、一部の使用できない部分の割合に応じての減額が認められるだけで、賃料全額を支払わないことは認められることではありません。
また、エレべーターが設置されてからすでに数十年が経過しており、リニューアル費用が800万円弱程度かかることからすると、保守点検・修繕やその努力を行っていれば、賃貸借契約上の賃貸人としての債務は履行しているというべきだと考えられます。したがって、未払い賃料を督促して、支払いがなければ契約の解除は可能と考えられます。以下で、裁判例を用いてその根拠を解説します。 -
エレベーターの故障と賃料の支払い
レストランの個室部分に直結しているエレべーターは、賃貸部分の一部と考えられますので、そのエレベーターが故障したことは、賃貸目的物の一部の使用収益が不能になったと考えられます。この場合、賃借人は、賃料が当然に減額されることを賃貸人に主張することができます(民法第611条1項)。
しかし、それは、賃料の全額を支払わなくともよいのではなく、あくまで使用収益できなくなった部分の割合に応じて、賃料が減額されるということに過ぎません。当該エレベーターの場合も、賃貸部分の一部使用収益不能となった部分だけ、減額されるだけです。
裁判例では、レストラン経営目的で個室直結のエレベーター付きで、2階を賃料月額35万円(管理・共益費なし)で賃借した際に、エレベーターがときどき動かなかった場合の賃料の減額は5万円が相当としたものがあります(東京地判 令3・6・22)。 -
賃貸人はエレベーターの修復義務を負うと解すべきか?
定期点検の際に一部部品の経年劣化が発見され、リニューアルの勧告を受けたとのことですが、数十年前に設置されたエレベーターであって、リニューアルには800万円弱の費用がかかるとすると、賃借人としても、内見の際に、エレベーターが相当程度劣化していることは認識していたものと思われます。賃料が月額30万円であること、賃貸人としては、保守点検・修繕やその努力を行っていれば、賃貸借契約上の賃貸人としての債務は履行しているというべきだと思われます。少なくとも、高額の費用を負担してエレベーターのリニューアルを実施する義務までは負わない、といってよいと思われます。
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賃貸借契約の解除は認められるか?
賃貸借契約においては、賃料を支払うことは賃借人の最も基本的かつ重要な義務です。これを正当な理由なく支払わないことは、債務の不履行に該当します。本件では、賃貸物件のうち、エレベーターが故障がちになり、作動しないことがあるようになった、ということですから、その使用収益できない割合に応じて賃料が減額されることはあっても、賃料全部の支払いをしないことは正当な理由があるとはいえません。前掲の東京地判令3・6・22では、「賃貸人として賃借人に対しエレベーターの保守・点検・修繕などを行う債務は負っているものの、エレベーターは昭和63年から稼働する古い形式のものであって、古いものであることは契約締結前の内覧・内見等により賃借人側も認識し得たものというべきである。そうすると、賃貸人は、古い形式であることを前提として保守点検・修繕やその努力を行っていれば、賃貸借契約上の賃貸人としての債務は履行しているというべきであり、少なくとも700万円を超えるリニューアル工事を実施して、常時使用できる状態に復旧しなければならない債務までを当然に負うとはいえない」と判示しています。
したがって、本件では、賃貸人は、賃借人に対し未払い賃料の支払いを相当期間を定めて催告し、催告期限内に支払いがなければ解除が認められるものと思われます。

