賃貸相談

月刊不動産2005年11月号掲載

契約面積と実際使用可能面積の相違

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

当社では、貸室の契約面積は共用部分を含めて表示しています。ところが、テナントのA社から、実際使用可能面積が契約面積よりも少ないことを理由に既払賃料の返還を請求してきました。契約面積に共用部分を含めて表示することは認められないのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 賃貸ビルにおける実際使用可能面積

     一般に、ビル賃貸借契約において表示されている契約上の貸室の面積は、実際に使用可能な面積よりも広く表示されている場合が少なくありません。その理由は2つあります。

    (1) 壁心計測の建築面積の使用
     1つは、専有面積の表示ですが、賃貸借契約上の面積は、ビルの建築面積がそのまま表示されていることです。ビルの建築面積は通常壁心で計算されています。すなわち壁の中心線で計測されていますのでビルの壁の厚さを考慮すると、その分、実際に使用可能な面積が減少することになります。通常、中高層ビルの外壁の厚さは15~20cmといわれていますから、その壁の中心までの部分、つまり7.5 ~10cmの部分は実際には使用できないことになります。

    (2) 共用部分の面積の加算
     もう1つは、ビルの共用部分の面積を契約面積に含ませることが行われることがあるからです。
     例えば、あるビルのフロア面積を360㎡、貸室が3室あり、A社の専有面積が100㎡、B社が110㎡、C社が90㎡である場合に共用部分の面積が60㎡であるとします。この場合には、共用部分の面積を各テナントの実際の専有面積割合で按分計算した面積を各専有面積に加えて表示するという具合です。これによると共用部分を按分した面積割合はA社は20㎡、B社は22㎡、C社は18㎡となります。そこで、契約面積はA社は120㎡、B社は132㎡、C社は108㎡と表示されることになります。

     しかし、実際に使用できる専有面積はA社は100㎡、B社は110㎡、C社は90㎡ですので、テナントからすると、ビル賃貸借契約における契約面積が過大に表示されているのではないかとの疑念を生じる原因となり得るわけです。

    2. 壁心計算による表示について

     一般に、ビル賃貸借契約における専有面積の表示方法については、通常壁心で計算されていることは、現在では一般的に理解が行き渡っているように思われます。
     また、壁心計算による面積減少のほか、貸室内に柱部分がある場合も、実際にはその部分も使用ができなくなりますが、この点についても一般に了解されている場合が多いように思われます。

     したがって、壁心計算による面積減少や柱部分の存在により実際の使用可能面積が契約面積よりも減少していることについては、ある程度常識として受け止められていると考えられます。
     このような場合には、契約面積の不足をとがめられることはないと思われます。

    3. 共用部分の面積を契約面積に含めることの可否

     これに対し、共用部分の面積を契約面積に含めることについては、これも不動産業界においてはある程度常識として受け止められているとはいえ、テナントとの間においては、トラブルを生じる余地があるといわざるを得ないでしょう。

     その理由は、共用部分の面積を加算することについては、各ビルによって、その計算方法が異なっている場合があり、テナント側に誤解を生じやすい側面があるからです。例えば、共用部分の面積加算については専有部分のあるフロアの共用部分のみを加算するだけではなく、他のフロアにある共用部分の面積も各フロアの専有部分の面積で按分して契約面積に含ませることもあり、必ずしも明確であるとは いえない部分があるからです。

     このため、共用部分の面積を契約面積に含ませている場合に、テナントから、面積の不足分に対する既払賃料の返還請求訴訟が提起されたり、錯誤による契約の無効や債務不履行であるとの主張がなされることがあります。

     現在までのところ、ビル賃貸借契約における契約面積は実際に使用可能な面積とは異なることが一般的に了解されていると思われますので、契約面積と実際の使用可能面積との相違が直ちに錯誤であるとか、契約不履行であるとの結論には至らないと考えられます。 

     しかし、テナント側が誤解を生じやすい部分でもありますので、契約面積に共用部分の面積を加えて表示する場合には、契約書にその旨を表示し、専有部分と共用部分の面積を記載しておく等の工夫をすることが望ましいと考えられます。

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