法律相談
月刊不動産2023年9月号掲載
専任媒介契約における自動更新条項
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
専任媒介契約について、「期間満了までにいずれの当事者からも解約の申出がない場合には、自動的に更新されて継続する」という特約(自動更新条項)を付けることができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
専任媒介契約に自動更新条項を付けることはできません。特約として自動更新条項を定めても、無効です。
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1.媒介契約
宅建業者に売買の媒介を依頼するには、①一般媒介契約と、②専任媒介契約(専属専任ではない場合と専属専任の場合がある)という2種類の方式があります。
①一般媒介契約
依頼者がほかの宅建業者に重ねて依頼をしてもよい契約です。この方式を採用するときには、親戚や知人などと直接交渉し、宅建業者を通さずに取引を進めることも可能です。有効期間についての法律上の制約はありません。②専任媒介契約
依頼者がほかの宅建業者に重ねて依頼することが禁じられる契約(宅建業法34条の2第3項、同法34条の3)です。専任媒介契約には、専任媒介契約(専属ではないもの)と専属専任媒介契約があります。専属専任媒介契約は、ほかの宅建業者への同時依頼禁止に加え、依頼者において、親戚や知人など、宅建業者が探した相手方以外の者との契約をすることができないこととする特約を設ける契約です(同法34条の2第1項8号、同胞施行規則15条の9 第2号、同法34条の3)。
専任媒介契約(専属専任の場合を含む)では、有効期間は、3か月を超えることができません。これより長い期間を定めたときは、その期間は3か月とされます(同法34条の2第3項)。この定めと異なる特約を設けても無効です(同法34条の2第10項)(図表)。
東京地判令和3 . 3 . 2 9 – 2 0 2 1WLJPCA03298008では、専任媒介契約における自動更新条項の効力が否定されました。 -
2.東京地判 令和3.3.29
①事案の概要
(1)Xは宅建業者、Yは借地権付き建物の所有者、Bは土地の所有者(借地権設定者)である。YおよびBは、Bの決めた相手方に底地・借地権・建物を売却する合意をした。
(2)YおよびBは、Xとの間で、期間満了までにいずれの当事者からも解約の申出がない場合には、自動的に更新されるという自動更新条項を付けて、専属専任媒介契約を締結した。
(3)専属専任媒介契約の期間満了後、YおよびBを売主、Xが紹介したZを買主として、売買契約が成立した。Xは、Yに対して媒介報酬を請求したが、Yは専属専任媒介契約は更新されずに終了していたことを理由に、媒介報酬の支払いを拒んだ(Bは報酬請求を拒まなかったようである)。
(4)Xは、Yに対して、媒介報酬の支払いを求めて訴えを提起したが、裁判所は、専任媒介契約における自動更新条項は無効であるとして、Xの請求を認めなかった。②裁判所の判断
『宅建業法34条の2第3項の趣旨は、専任媒介契約が当該宅建業者に媒介受託の地位を排他的、独占的に確保させるという点において当該依頼者を強く拘束するものであることに鑑み、当該依頼者の契約締結の自由を確保する観点から専任媒介契約の有効期間を3か月に限定したものと解される。また、一般に、契約更新は当事者間の合意があれば可能であり、当該契約の有効期間満了までに当事者のいずれからも解約の申し出がない場合には自動的に更新される旨の自動更新条項について各当事者が承諾していれば、当該契約は、当事者のいずれからも解約の申し出がない限り、自動的に更新されて存続することとなる。しかし、専任媒介契約においてこのような自動更新条項を設けることは、宅建業法34条の2第3項が定める有効期間の規制の潜脱といえることから、同第4項は、一方当事者である依頼者の申し出があったときのみ更新できることとし、更新後の有効期間を3か月に限定したものと解することができる。
同項の上記趣旨に加え、同第10項が同第3項、4項の規定に反する特約は無効とする旨を明確に規定していることに鑑みると、同第3項、4項の規定に反する自動更新条項は完全に無効であり、同条項によって契約が自動的に更新される余地はないと解すべきである』。