法律相談
月刊不動産2023年7月号掲載
太陽光発電事業不能による売買契約の白紙解約
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
太陽光発電事業を行うため、「目的を達することが不可能となった場合、契約は白紙解除となる」という特約を付けて土地を購入しました。しかし、地元の大多数の土地所有者が参加し、地域の環境整備を行っている管理組合から反対され、事業を実施することができません。売買契約の白紙解約を主張することはできるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
回答
売買契約の白紙解約を主張することができます。管理組合が反対していることは、事業のリスク、不確実性を大きく増大させるとともに、一般的に事業の実施を強く躊躇させる事情であって、社会通念上、「目的を達することが不可能」にするものということができるからです。
-
1.太陽光発電事業を巡るトラブル
地球温暖化対策は社会全体で対応するべき重要な課題であり、太陽光発電の普及が強く求められています。しかし、太陽光発電設備を設置し、設備を稼働させることは、設備設置工事の実施や設備設置後の反射光などによって、近隣住民に迷惑がかかることがあり、太陽光発電を巡るトラブルは増加しています。
東京地判令和3.12.24-2021WLJPCA12248011では、太陽光発電設備を設置するための土地の売買契約について、近隣住民の反対によって設備設置ができなかったことから、契約が白紙になりました。 -
2.東京地判 令和3.12.24
Ⅰ. 事案の概要
(1) Xは、平成30年4月24日、太陽光発電事業を行うことを目的として、売買代金600万円(太陽光発電事業の権利譲渡の対価を含む)で、Yから土地(本件土地)を購入した(本件売買契約)。本件売買契約には、『本物件取引は、買主が太陽光発電所事業を目的とした土地売買であり、各関係省官庁から許可等が得られず、また、目的を達することが不可能となることが明らかになった場合、本契約は白紙解除となることを売主買主共に承諾した』との特約が付されていた。
(2) 本件土地は、c町bタウン内にある。bタウンは総区画数約6,000区画の大規模な開発地であり、土地所有者は、タウン内の自然環境を保持し、生活環境を整備充実させることを目的とする管理組合(本件管理組合。任意団体)との間で、管理契約を締結している。本件管理組合は、建築および土木工事に関して規程を設け、ルールを定めている。
(3) Xは、本件土地の所有権移転登記手続完了後、本件管理組合から、事業用太陽光発電設備の設置は本件管理組合の管理規約に規定する土地利用上の制限違反であり、本件土地において太陽光発電事業を行うことは禁止されていると指摘を受けた。
bタウン内の事業活動に関してはbタウンのルールが重視されており、c町の担当者によって太陽光発電事業をするには本件管理組合の同意が必要である旨の指導がなされていたこともあり、結局Xは太陽光発電事業の実施を断念した。
(4) Xは、土地購入の目的が不可能となって本件売買契約は白紙解約になったとして、本件特約条項に基づき600万円を返還するよう求め、Yに対して訴えを提起した。
裁判所はXの主張を認め、600万円の返還請求を認容した。Ⅱ. 裁判所の判断
まず、本件管理組合について、『タウン内の土地所有者が任意に加入する任意団体であるが、加入率50%を維持していること、c町の担当者が太陽光発電事業をするには本件管理組合の同意が必要であるとの説明をしたり、本件管理組合の理解、賛同やルールにのっとって対応するよう指導していること、本件管理組合は、タウン内で工事を施工する業者にとっても重要な存在であること等の諸事実を踏まえると、本件管理組合は、タウン内の土地所有者にとって、その存在および意向を軽視することのできない存在である』としたうえで、『その本件管理組合がタウン内において太陽光発電事業を禁止し、Xに対しても同事業を実施しないよう強く求めていることは、Xを法的に拘束するものではないとしても、同事業のリスク、不確実性を大きく増大させるとともに、一般的に同事業の実施を強く躊躇させる事情であるといえるから、社会通念上、「目的を達することが不可能」にするものというべきである』と判断しました。
Yは、本件管理組合の反対活動はXの本件土地における太陽光発電事業を法律的に不可能にするものではないと主張していましたが、判決では、『本件特約条項は、社会通念に照らして判断するのが相当であるから、Yの主張は、採用することができない』として、Yの主張を否定し、Yに対して600万円の返還を命じています。