税務相談

月刊不動産2018年4月号掲載

第一種市街地再開発事業に係る権利変換が行われた場合の所得税の取扱い

山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長 税理士)


Q

 個人が第一種市街地再開発事業により、所有する土地建物等を手放す代わりにその資産価値に見合う再開発ビルの床に関する権利を与えられた場合の所得税の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     質問の場合は、個人が手放した土地建物等の譲渡はなかったものとみなされ、所得税の課税が繰り延べられます。なお、再開発ビルの床に関する権利に合わせて清算金を取得した場合は、所得税の計算上清算金を取得した部分について収用等による譲渡があったものとみなされ、下記2.(2)の要件を満たすことにより収用等に係る譲渡所得の特例の適用を受けることができます。

  • 1.第一種市街地再開発事業の概要

     市街地再開発事業とは、都市再開発法に基づいて行われる都市計画事業であり、低層の木造建築物の密集地や、土地の利用状況が不健全な市街地において、道路や公園などの公共施設の整備と共同建替えなどを総合的に行い、不燃化された共同建築物の建築や、土地の高度利用、都市機能の向上を目的として行われるものです。

     第一種市街地再開発事業は、一般に「権利変換方式」といわれ、市街地再開発事業

    が行われる区域の土地建物等の所有者(図のAさん、Bさん、Cさん)等に、その土地建物等を手放す代わりにその資産価値に見合う再開発ビルの床に関する権利(権利床)を与える(これを「権利変換」といいます)とともに、土地の高度利用によって生み出される新たな床(保留床)を他(図のXさん)へ売却することにより、建築費などの事業費用を回収する方法をとります。

  • 2.個人が第一種市街地再開発事業により権利床を取得した場合の所得税の特例

    (1)基本的取扱い

     前述1.の図のAさん、Bさん、Cさんのように、土地建物等の所有者である個人が第一種市街地再開発事業により権利変換を受けた場合には、土地建物等の譲渡はなかったものとみなされ、所得税の課税が繰り延べられます。取得した権利床は、権利変換前の土地建物等の取得時期および取得価額を引き継ぐこととなります。この特例は、納税者の選択の有無にかかわらず強制的に適用されることから、所得税の申告手続は不要です[租税特別措置法(措法)33条の3第2項、33条の6]。

     なお、権利床を取得しないで、再開発区域内の宅地等を取得する場合も、所得税の計算上はこの権利床を取得した場合と同様の取扱いとなります。

    (2)清算金が支払われる場合

     土地建物等の所有者が第一種市街地再開発事業により権利変換を受けた場合に、権利変換前の土地建物等の価額が権利床の価額よりも多いときは、その所有者に対して清算金が支払われる場合があります。この場合には、原則として権利変換前の土地建物等の清算金に相当する部分の譲渡があったこととなり、所得税が課税されます。

     しかし、その清算金が支払われた場合には、措法33条1項に定める収用等による譲渡があったものとみなされ、譲渡所得の金額の計算上、次の①と②のいずれかの特例の適用を受けることができます(措法33条の3第3項、33条の4)。①は清算金により代替資産の取得をした場合に限りますが、②は代替資産の取得の有無は問いません。なお、いずれの場合も、原則として確定申告が必要です。①収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の繰延べの特例(措法33条)

     清算金により代替資産を取得し、清算金額よりも代替資産の取得価額のほうが多い場合、所得税の課税が繰り延べられ、権利変換日の年の譲渡はなかったものとされます。清算金よりも代替資産の取得価額のほうが少ない場合、その差額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。この特例の適用を受けるには次のすべての要

    件を満たす必要があります。

    イ.権利変換の対象資産が固定資産であること

    ロ.原則として同じ種類の資産を取得すること

    ハ.原則として清算金を受け取ることとなった日から2年以内に代替資産を取得すること

    ②収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(措法33条の4)

     譲渡所得の金額から、最高5,000万円までの特別控除を差し引くことができ、次のすべての要件を満たす必要があります。

    イ.権利変換の対象資産が固定資産であること

    ロ.その年にその他すべての収用事業により譲渡した資産の全部につき①の適用を受けていないこと

    ハ.買取り等の申出があった日から6カ月を経過した日までに土地建物等を譲渡していること

    ニ.再開発事業の施行者から最初に買取り等の申出を受けた者(その者より相続または遺贈により当該資産を取得した者を含む)が譲渡していること

    ホ.同一の再開発事業に係る資産の譲渡が二以上の年にまたがる場合、最初の年の譲渡であること

  • Point

    • 個人が第一種市街地再開発事業に係る権利変換により権利床を取得した場合、所得税の計算上は上記2. (1)の取扱いが強制されるため、所得税の申告手続は不要です。
    • 個人が第一種市街地再開発事業に係る権利変換により清算金を取得した場合、所得税の計算上、上記2.(2)①の「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の繰延べの特例」または②の「収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除」の適用を受けるためには、確定申告が必要です
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