税務相談

月刊不動産2019年6月号掲載

相続した複数の不動産を同じ年に譲渡した場合の、本来の取得費に加算される相続税額

税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長)


Q

個人が相続により取得した建物と土地を同じ年に譲渡した場合において、その人の譲渡所得の金額の計算上、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例により、本来の取得費に加算される相続税の計算方法について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     本来の取得費に加算する相続税の額(以下「取得費加算額」)は、譲渡資産(建物・土地)ごとに計算します。取得費加算額は、その特例の適用前のその資産の譲渡益(譲渡収入金額-取得費および譲渡費用の合計額)が上限とされ、その資産の譲渡価額が、本来の取得費および譲渡費用の合計額未満のため譲渡損失が生じる場合には、ないものとされます。また、同じ年に建物と土地を譲渡した場合に、建物には譲渡損、土地には譲渡益が生じるときは、建物には取得費加算額はなく、土地のみに取得費加算額が生じます。とされます(租税特別措置法39条。以下「本特例」という)。

  • 1. 相続財産を譲渡した場合の譲渡所得に係る取得費の特例

     相続または遺贈(以下「相続」)により財産を取得した個人が、相続開始のあった日の翌日から3年10カ月以内に、その相続税の課税価格計算に算入された財産を譲渡した場合、その譲渡所得の金額の計算上、譲渡収入である譲渡代金から控除する取得費は、本来の取得費に次の①または②のうちいずれか少ない金額(「取得費加算額」)を加算した金額とされます(租税特別措置法39条。以下「本特例」という)。
     本特例の適用により、相続税のうち本来の取得費に加算された金額だけ譲渡所得の金額が少なくなるため、課税される譲渡所得の金額が小さくなります。

  • 2. 複数の相続財産を同じ年に譲渡した場合の取得費加算額の計算

     本特例の適用において、相続で取得した建物と土地を同じ年に譲渡した場合に、建物には譲渡損、土地には譲渡益が生じているときは、取得費加算額の計算上、前述1.①と②の金額の比較を建物と土地とで別々に行うのか、あるいは建物と土地をまとめて行うのかが問題となります。
     この点について租税特別措置法39条8項は、“譲渡した資産ごと”、つまり建物と土地それぞれで取得費加算額を計算すると定めています。

  • 3. 事例による取得費加算額の計算

     上記2.の複数の相続財産を同じ年に譲渡した場合の取得費加算額の計算について、具体的な事例による計算例を以下のとおり示します。各相続人の取得費加算額の計算がどのように行われるのか、イメージをつかんでいただきたいと思います。

今回のポイント

●個人が相続により取得した建物と土地を同じ年に譲渡し、本特例の適用を受ける場合において、【事例】のように建物には譲渡損、土地には譲渡益が生じたときは、その譲渡損の生じた譲渡資産(建物)に対応する部分の相続税相当額[3.<建物>①の80万円]は、建物の取得費に加算できないほか、他の譲渡資産(土地)の取得費に加算することもできないので、注意が必要です(租税特別措置法通達39-5)。

一覧に戻る
page top
閉じる