法律相談

月刊不動産2016年6月号掲載

仲介会社の法令違反の説明義務

渡辺晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 5階建てビルとその敷地の売買を仲介することになりました。このビルの1階は、建築時には駐車場であったことから容積率の制限が緩和されていますが、その後改装され、現在は、駐車場ではなく、店舗になっています。容積率制限違反の可能性を説明しなければならないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     仲介会社は、買主に対して、容積率違反の可能性があることを説明すべき義務があります。

  • 35条列挙事項以外についての 仲介会社の説明義務

     宅建業法は、宅建業者に対して、取引の関係者に対し信義誠実を旨として業務を行う責務を負わせ(第31条)、第35条によって、詳細な重要事項の説明義務を規定しています。

     しかし、宅建業者の説明すべき事項は、土地建物の購入者等の利益の保護の観点から、民事上、第35条に定める事項に限定されるものではありません。たとえば、東京高判平成13.12.26は、『同法第35条が,「少なくとも」同条に掲げられた事項について,宅地建物取引主任者に説明させるべきものとしていることに照らせば,同条に規定された重要事項は,買主保護のために最低限の事項を定めたものに過ぎないと解される。そうすると,宅地建物取引業者は,信義則上,同条に規定された事項は勿論,買主が売買契約を締結するかどうかを決定付けるような重要な事項について知り得た事実については,これを買主に説明,告知する義務を負い,この義務に反して当該事実を告知せず,又は不実のことを告げたような場合には,これによって損害を受けた買主に対して,損害賠償の責めに任ずるものと解するのが相当である』と判示しています。

     売買対象の建物の容積率違反は、第35条に列挙されてはいませんが、売買対象の建物に容積率違反の可能性があれば、宅建業者は説明義務を負います。以下、容積率違反の可能性の説明が問題とされた東京地判平成25.3.6を紹介します。

  • 35条列挙事項以外の 説明義務についての裁判例

    事案の概要

     東京地判平成25.3.6の事案は、次のとおりです。

    (i)売主Xと買主Yは、仲介会社Zの仲介により、5階建て建物(本件建物)の売買契約を締結した。

    (ii)建築基準法上、容積率算定の基礎となる延べ床面積には、各階の床面積の5分の1以下までの駐車場の面積は含まれないところ(建築基準法施行令第2条第1項第4号イ、第3項)、本件建物は1階の一部98.66㎡を駐車場とする内容で建築確認の申請が行われ、容積率が緩和されていた。しかし、建築当時駐車場とされていた部分は、売買契約当時には事務所あるいは店舗となっていた。

    (iii)Zは、売買契約に先立って、建物の建築確認申請時には、駐車場とする床面積が98.66㎡であることを理由に容積率の緩和を受けていたことと、売買契約締結当時には、建物に駐車場となっている部分が存在しないため、増改築、再建築の際には、現在と同規模の建築物は建築できない場合があることについて、重要事項説明書に記載し、Yに対して、説明した。

    (iv)Yは、売買代金を支払い、引渡しを受けた後に、容積率に関する説明が不十分であったとして、Zに対して、損害賠償を請求した。

     

     

    裁判所の判断

    (1)判決は、まず、『宅建業法第35条はその文言から,宅地建物取引業者が調査説明すべき事項を限定列挙したものとは解されないから,宅地建物取引業者が,ある事実が売買当事者にとって売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項であることを認識し,かつ,当該事実の有無を知った場合には,信義則上,仲介契約を締結していない売買当事者に対しても,その事実の有無について説明義務を負う場合があると解される』として、35条列挙事項以外についての仲介会社の説明義務を明言しました。

    (2)続いて、建物が容積率の制限に反した状態にあったことについて、『建築基準法による容積率の制限に違反した状態にあるか否かは,通常,売買契約を締結するか否かを決するに際し重要な事項であると解されるから,Zには,Yに対し,容積率違反の状態にある可能性があることを説明すべき義務があった』として、Zに調査説明義務があったことを肯定しています。

    (3)そのうえで、『もっとも,Zは,本件建物が建築確認申請時には,駐車場とする床面積が98.66㎡であることを理由に容積率の緩和を受けていたこと,本件売買契約締結当時には,本件建物に駐車場となっている部分が存在しないため,増改築,再建築の際には,現在と同規模の建築物は建築できない場合があることを本件重要事項説明書に記載し,Yに対する説明を行っている。この説明によれば,本件建物が本件売買契約当時,容積率の制限に違反した状態にある可能性があることが認識できたというべきであるから,Zには,本件建物の現状が容積率に違反した状態にあるか否かについての説明義務の懈怠はないというべきである』として、Z社の説明義務違反を否定しています。

     

    (参考)容積率について

     容積率 = 建築物の延べ面積※ / 建築物の敷地面積

     ※自動車車庫その他の専ら自動車又は自転車の停留又は駐車のための施設の用途に供する部分は、各階の床面積の合計の5分の1まで、算入しない(施行令第2条第1項第4号イ、第3項)

  • Point

    • ビルの一部を駐車場として建築確認を取得して建築を行いながら、建物完成後に、駐車場から店舗などに用途を変更している場合には、中古のビルを売買する際に、容積率制限違反の状態となっている可能性があります。
    • 宅建業者が説明すべき事項は、民事上、宅建業法第35条に列挙される事項に限定されません。容積率制限違反の可能性があることは、宅建業者の説明すべき事項にあたります。
    • 裁判例においては、宅建業者が、売買契約の前に、建築確認申請時に駐車場があることを理由に容積率の緩和を受けていたこと、および、売買契約締結時には駐車場となっている部分が存在しないため、増改築、再建築の際には、現在と同規模の建築物は建築できない場合があることを説明していれば、容積率制限違反の可能性を説明していたものとされています。
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