法律相談

月刊不動産2006年6月号掲載

飲料水供給用ポンプの説明

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

ビルの売買を仲介するにあたり、売主の言を信じ、飲料水供給ポンプに異常はないと買主に説明しましたが、引渡し後にポンプの故障が判明しました。ポンプ室への立入りを拒まれていたので、ポンプ室への立入りは行っていません。仲介業者としての義務違反はあるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 仲介業務を行うに際してできる限りの調査を行い、その調査結果を報告していたのであれば、仲介業者に義務違反はありません。仮にポンプ室に入れば故障が判明していたとしても、立入りを拒まれていた以上、仲介業者に責任はありません。

     ビルの売買において、「給水設備状況はどうなっていますか」という買主からの質問に対し、実際にはポンプが故障していたにもかかわらず、「ポンプに異常はありません」と仲介業者が回答していたため、トラブルになったケースがあります(東京簡裁平成16年12月15日判決)。仲介業者は、売主からポンプ室への立入りを断られていたために、水道局で取得した配管図面と売主からのヒアリング調査に基づき、ポンプの所在、配管状況、個別メーターの有無を報告した上、ポンプに異常はないと答えていました。

     この訴訟では

     (1) 仲介業者にポンプの状況を調査報告すべき義務があるか
     (2) 仲介業者に調査報告義務があるとして、本件において義務違反があるかどうか

    の2点が争われました。

     裁判所は、(1)については、「飲用水供給のためのポンプの作動状況は、それが宅地建物取引業法における重要事項説明義務(宅建業法35条1項4号)の対象であるか否かにかかわらず、建物で生活する者にとって極めて重要な事柄である。またその作動状況は、高度な専門的知識がなくても、ポンプ室に入って適切な調査を行えば容易に覚知できる事柄であるといえる。したがって仲介業者は、ポンプの作動状況について、通常の注意を尽くせば認識できる範囲で調査報告義務を負う」として、調査報告義務を認めました。

     他方(2)については、「仲介業者は自らポンプ室内に足を運んでポンプの作動状況を確認したことはないが、これは、売主が第三者に売買の話が知れることをおそれて、ポンプ室内の現況調査を拒否したためであると認められる。そのため仲介業者は、給水設備の状況について売主側にヒアリング調査等を行い、その結果を買主に報告したのであり、このような状況下で通常行える調査を行ったといえる。このことからすると、仲介業者がポンプの故障を覚知せずこれを買主に報告できなかったことは、やむを得なかったことであり、仲介業者の責めに帰すべき事由があったとはいえない。したがって仲介業者には、仲介契約上の債務不履行(仲介物件の調査報告義務違反)があるとは認められない」として仲介業者の義務違反は否定されました。

     まず(1)についてみると、従来から裁判例において「不動産仲介業者は、消費者の立場にある買主が物件購入の意思決定をするに当たって過不足のない情報を提供すべきであり、説明告知する義務を負う事項は宅地建物取引業法35条に規定されている事項に限られないということはいうまでもない」(東京地裁平成 13年6月27日判決)と明言されているように、仲介業務を行うについては、宅建業法に明示されているか否かを問わず、買主、借主の購入、賃借のための重要な情報を提供しなくてはならないのですから、ポンプの状況をできる限り調査して報告することは、仲介業者の義務であるといわざるを得ません。

     しかし(2)について検討すると、仲介業者に課される調査報告義務は、通常の注意を尽くせば認識できる範囲内に限られます。ポンプの状況に関しても、仲介業者がポンプ室への立入りを拒まれているときには、立入りを行わないで調べられる範囲に限って調査義務を負担しているものといえます。
     法律は不可能を強いません。物件調査義務があるといっても、可能な限りの調査を行っていれば責任は問われませんし、契約締結にあたり、知り得なかった事項については契約締結時の説明義務も生じません。仲介業者に法律上課される義務は、通常行うことのできる調査と説明を行うことであり、通常行うことのできる調査と説明を行っていれば、責任を問われることはないわけです。

page top
閉じる