賃貸相談
月刊不動産2002年12月号掲載
賃貸Q&A・賃貸業務のトラブル事例と対応策(7)
弁護士 瀬川 徹()
Q
アパートの賃貸借契約で借主が無断で部屋を不在にして1月半が経過しました。契約には1月以上の無断不在は、賃借権を放棄したものとみなすとの条項があるので、貸主が部屋の中の荷物を搬出しても良いのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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この状況で当然に契約が終了とは考えられず、改めて契約解除の手続きをとり、その上で、任意の明渡しの道がなければ法的な手続きで荷物を搬出すべきです。貸主が勝手に借主の荷物を搬出することは、控えてください。
「問題点と知識の確認」1.本件は、まず、1月以上の無断不在により賃借権を放棄したものとみなせるか。そして、仮に契約が終了して場合も貸主が勝手に部屋の中の借主の所有物を搬出できるかの検討が必要です。
2.契約終了と自力救済の可否
(1)無断不在が1月以上となれば、形式的には借主は契約違反をしています。しかし、このことで賃借権を放棄したものとみなすことや貸主が契約を解除できるとは限りません。たとえ、借主に契約上の些細な違反があったとしても、貸主からの契約解除が認められるためには、賃貸借契約の基礎にある貸主と借主の信頼関係が破壊した状況が必要とされます(信頼関係破壊の理論)。ですから、賃借権の放棄とみなす契約条項の効力は認められず、契約解除も例えば、不在であるが家賃だけは送金している場合や部屋の管理状況に著しい問題がない場合には認められないでしょう。家賃も不払い、所在も不明が数ヶ月続き、部屋の管理にも不安が生じてくる状況になれば解除が認められる余地は出てきます。
(2)この場合、貸主は催告並びに契約解除の意思表示をする必要があるでしょう。しかし、この場合、借主が不在ですから催告並びに契約解除の意思表示は、送付しても届かないでしょう(不在又は転居先不明で戻ってきます)。この場合にその意思表示を公示送達(裁判所に申立する)ですることもできますが、明渡しの強制を考えると、判決などの債務名義も取得する方法が効率的です。判決に基づく強制執行ではなく勝手に貸主が荷物の搬出をすることは、自力救済として違法な行為です。そのため、最初から借主(及び連帯保証人)を被告とする明渡し及び未払い賃料の支払いを求める裁判を提起し、その訴状の中で、契約解除をします。借主が行方不明の場合訴状の現実の送達も無理ですから、訴状の公示送達がされ裁判が開かれます。連帯保証人には、訴状の送達が可能ですから、連帯保証人に関する裁判は並行して普通に並行して行われます。いずれも、裁判の結果は、「借主は貸主に部屋を明渡せ、及び、借主並びに連帯保証人は、部屋の明渡し完了までの間、未払い賃料並びに賃料相当額の損害金を支払え」との判決となります。この判決に基づき強制執行を行い明渡しを実現していくのです。
3.明渡し並びに荷物の搬出の可否
(1)判決が出ても、荷物の所有権は借主にあります。従って、貸主はもちろん、たとえ連帯保証人でも借主の荷物を勝手に搬出できませんし、ましてや処分するなどできません。窃盗や器物毀損の罪に該当する可能性が生じます。たとえ、賃貸借契約の条項で「借主は、荷物の所有権を放棄したものとみなし」と定めていても問題です。こうした特約の有効性が疑問とされるからです。
(2)現実の荷物の搬出は、前記判決に基づく強制執行手続きにより行います。裁判所に明渡しの強制執行(あわせて、未払い金の債権に基づく動産差押執行)の申立を行います。裁判所は、現場に行き、部屋の中に入り、もし、借主が居れば、借主に対し、まずある程度の猶予期間を与え任意に明渡すよう催告します(催告執行)。その間に明渡さない場合、猶予期間の終了日に執行官が部屋の荷物を強制的に保管場所に移動し明渡しを実行します。保管場所は、事前に執行官と話しをし、場所を確保しておき、荷物の梱包や搬送の手配も執行官の指示に従い貸主側で手配します。もちろん、借主が任意に明け渡せば断行日に執行をする必要はありません。
借主が居ない場合(本件の場合)も、執行官は、現場に入り借主が占有をしていたことの確認をし、断行日に上記のような執行を行います。なお、借主が居ない場合の強制執行には、債権者である貸主側以外の第三者の立会いが必要です。
いずれの場合も借主の荷物は、約1月程度保管場所に保管され、執行官は、その荷物について競売期日を定め、競売します。但し、関係者以外誰も競売の事実を知りませんので、現実に競売するのは債権者である貸主でしょう。競落により荷物の所有権は、貸主のものになるので、後は搬出や破棄が問題となりません。この段階で、はじめて処分が自由になるのです。なお、競落の代金は、現実的には、荷物の保管費用(債権者である貸主が立て替えて支出している)や未払い賃料などの一部にあてるため配当がされ債権者である貸主に戻ります。4.連帯保証人に対する関係
(1)上記のように訴状は、連帯保証人をも被告として提起できます。判決も「連帯保証人は借主と連帯して支払え。」となります。後は、任意に払わない場合、連帯保証人の預金や不動産などに強制執行します。
(2)連帯保証人が借主に代わり荷物の搬出ができるかが問題となります。連帯保証人が事実、借主と連絡が取れて、任意の明渡しの手続を行う代理権限を付与されたのであれば、その責任で明渡しが可能です。単に連帯保証人というだけでできるものではありません。必ず、借主からの委任が必要です。逆に、借主がそうした委任をする位なら、借主本人が直接、貸主に連絡をとり、連帯保証人に明渡しをさせる旨伝えるべきです。連帯保証人の明渡しに関する権限の確認が重要です。権限がないまま連帯保証人が荷物を搬出したりすれば、やはり、不法行為となります。
それらを一緒に行った貸主側も共犯として同様の責任が生じます。注意してください。