賃貸相談
月刊不動産2003年11月号掲載
賃料を供託されたら
弁護士 田中 紘三(田中紘三法律事務所)
Q
賃料を供託されてしまいました。どんなことが問題になりますか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1.賃借人が賃料の弁済供託(以下単に供託といいます)をするのは、賃料不払いという理由で賃貸借を解除されないようにするためです。供託したときには、賃貸人は、もはやその分について賃借人の不払い責任を追及することはできなくなります。
2.しかし、本来、供託をすることが許されないのに賃借人が賃料を供託したような場合は、もちろん別論です。供託書の供託事由欄に虚偽の記載をしたような場合(明渡しを求めたことなど一度もないのに、明渡しを求められ係争中などと記載したような場合もそれにあたります)には、供託はできても、賃貸人は、それを有効な供託と認める必要はありません。
したがって、賃貸人は、その供託を無視して、賃料の支払を請求し、その請求に応じない賃借人に対しては、賃貸借解除をもって対抗することが可能です。3.いまどきは、賃料が値下げになることもまれなことではありません。賃借人が賃料の値下げを要求しても折り合いがつかない場合、賃借人は、その値下げが正式に決まるまでは、現行賃料を払い続けなければならす、現行賃料又は一方的値下げ額による供託をすることはできません。いったん払ってしまえば、資金繰りに忙しい賃貸人から後日過払い分を取り戻すことが難しくなると思ったとしても、供託の理由にはできず、供託は受け付けられないでしょうし、もっともらしい他の理由をつけて供託したとしても、その供託事由がウソであれば、供託は無効です。したがって、上記の場合と同様に、賃貸人は、供託されていることを無視して、賃料を請求し、場合によっては、賃料不払いを理由として賃貸借を解除することもできます。
4.賃借人は、賃貸人からの賃料値上げ請求に応じられないときには、賃貸人が現行資料の受領を拒否する限り、現行賃料額で賃料を供託することができます。多くの場合、賃借人がこのような手段にでると、それまでにあった賃貸人と賃借人との対話の糸は、プッツリと切れてしまいますので、賃貸人としては、早期の手当てが必要です。
まず、値上げ請求を撤回して事態を収拾しようとするときは、即時賃借人に値上げ請求を撤回すると通知して、賃料を従前どおりの方法で支払うように通告すべきです。この場合、賃貸人は、供託通知書を法務局に持参して供託金の払戻しを受けます。専門用語では、還付を受けるといいます。
また、値上げ要求を撤回しないときでも、賃貸人は従前の金額の賃料の供託金の払戻しを受けることができます。払戻しを受けたからといって、値上げ請求を撤回したことにはなりません。心配なら、そのことを書面にして賃借人に送付しておくといいでしょう。5.賃借人は、賃貸人が賃貸借の継続を拒否し、明渡しを求めたときには、賃料を供託することができます。このような場合、賃貸人が何も言わずに供託金の払戻しを受けると、明渡し請求を撤回したとみなされる恐れがあります。供託の払戻しを受けて使用損害金に充当するという趣旨の通告書を賃借人に対して送付しておくと、その心配なく払戻しを受けることができます。
6.供託されても手つかずにしておくと、いつのまにか賃借人が一方的に取り戻して姿をくらますこともあります。また、賃借人の債権者に差し押さえられてしまうこともあります。実際問題として、そういう事態になったときは、供託された賃料を別途回収する希望は薄くなってしまいます。賃貸人としては、賃料を供託されたときは、速やかに払戻しを受け、また、賃借人との間では、再度供託されないような関係にもっていくように努力すべきです。
7.以上のほか、賃貸人側の相続、建物の帰属紛争、賃料の譲渡や差押えなどの「とばっちり」で、賃料の供託を余儀なくされることもあります。このような場合には、供託原因が違ってきますし、執行供託という特別の方式の供託をしなければならなくなることもあります。