賃貸相談

月刊不動産2009年5月号掲載

貸ビルの駐車場契約の解除

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

貸ビルの敷地内に駐車施設を設け、ビル内のテナントに利用させています。テナントのA社は、ビルの使用状況に問題があるもののビル賃貸借契約の解除は難しいので、駐車場契約を期間満了を理由に消滅させようと思います。駐車場契約の解消は有効にできるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.貸ビル敷地内の駐車場利用契約の法的性質

    (1) 問題点の所在

     一般に、貸ビル経営においては、ビル敷地内に駐車場施設を設け、車両を業務に使用しているビル内のテナントの日常的な利用に供しているところが少なくありません。

     このような貸ビル敷地内にある駐車場利用契約の場合には、駐車場施設部分は貸ビルの敷地内にありますので、テナントに対する駐車場利用契約も建物の賃貸借に含まれるのではないか、そうであるとすれば借地借家法の適用があるのではないかということが最初に問題となります。

     もし、貸ビル敷地内の駐車場施設を利用する契約も建物賃貸借契約に含まれ、借地借家法が適用されるのであれば、貸ビルオーナーは、テナントに対する駐車場利用契約についても、いわゆる正当事由を具備していない限り解消することはできないことになります。

    (2) 自動車保管の寄託契約

     一般的に、貸ビル経営において、貸ビル敷地内に駐車施設を設け、これをビルテナントの利用に供することは、ビルの敷地である土地の賃貸借であるとか、建物賃貸借の一部と解されるのではなく、自動車の保管を委託することを目的とした寄託契約と解されます。すなわち、こうした駐車場施設の利用は、独立した土地や建物の賃貸借ではなく、テナントが使用する自動車の保管を委託したものと考えるわけです。したがって、貸ビル敷地内での駐車場施設の利用契約は、原則として寄託契約であって、土地や建物の賃貸借となるものではないと考えてよいと思われます。

     なお、仮に駐車場用地の「土地の賃貸借」であるとみる余地があるとしても、駐車場は「建物の所有を目的」とするものではありませんから、借地借家法が適用される土地賃貸借ではありません。

    (3)  駐車場施設の賃貸借契約

     これに対し、貸ビルの建物の一部を駐車場として利用しているケースがあります。ビルに設置された地下駐車場や、ビル内あるいはビル外に設置された立体駐車場施設などの場合です。

     これらの立体駐車場施設も、駐車位置が特定されていないのであれば賃貸借とみられることはないと思われます。しかし、駐車位置が特定されているとなると賃貸借契約とみられる場合があり得ます。

     したがって、駐車位置が固定的に特定されているか否かが賃貸借かそうでないかの判断基準といってよいと思います。ただし、駐車位置が特定されており賃貸借とみられる場合でも、それが「建物の賃貸借」であるかは別の問題です。確かに駐車施設は立体駐車場という建物の中に存在してはいますが、それは契約の目的及び実態からすると、土地や建物を賃貸借の目的としたものというよりは、駐車施設それ自体の賃貸借と認められる場合が多いと考えられています。判例においても、旧借家法時代の判例ですが、ビル内に存在する立体駐車場室の賃貸借について、駐車場の賃貸借であるとはいえても、 (駐車場施設の存在する) 建物の賃貸借とはいえないものとして、旧借家法の適用を否定しています。

    (4) 駐車場利用契約と借地借家法の適用

     上記のように、駐車場利用契約は、原則として、建物賃貸借に該当する場合は極めて稀まれと思われますし、土地の賃貸借とみられる場合であっても建物の所有を目的とした賃貸借ではありませんので、やはり借地借家法が適用されないものと考えてよいと思います。

    2. 貸ビル賃貸借契約と駐車場利用契約との関係

     駐車場利用契約それ自体には借地借家法がないということから、直ちに、貸ビル賃貸借契約に伴う駐車場利用契約も自由に契約の解消ができると考えることができるわけではありません。例えば百貨店経営者に対する百貨店施設建物の賃貸借に伴い、隣地に百貨店利用客用の駐車場の賃貸借をした場合には、駐車場を廃止すれば顧客の来店は激減するのですから、百貨店の建物の賃貸借と駐車場賃貸借とは一体不可分のものと認められる場合があり得ます。判例においては、そのように一体のものと認められる場合には、駐車場用地のみの賃貸借契約の解除は無効であるとしています。

page top
閉じる