税務相談

月刊不動産2022年4月号掲載

譲渡所得の金額の計算上、概算取得費により申告した後に、実際の取得費が判明した場合の所得税の取扱い

税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画部部長)


Q

不動産にかかる譲渡所得の金額の計算上、概算取得費(後述1(. 2)参照)により申告した後に、実際の取得価額が概算取得費よりも大きいことが判明した場合における、所得税の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

    国税通則法上の「更正の請求」(後述2.参照)を行うことにより、納めすぎた所得税の還付を受けることができます。

  • 1. 取得費について

    (1)取得費の原則
     土地に係る譲渡所得の金額上控除する取得費は、土地の取得に要した金額(土地の取得に係る買入れ代金や宅地建物取引業者に支払った仲介手数料等)および改良費(土盛り、地ならし費用等)の合計額とされます(所得税法第38条第1項)。

    (2)概算取得費控除の特例
     昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地を譲渡した場合における、長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、上記(1)の金額よりもその譲渡に係る収入金額の5%相当額のほうが多い場合には、その譲渡に係る収入金額の5%相当額をもって、土地の取得費とすることができます(租税特別措置法第31条の4)。
     昭和28年1月1日以後に取得した土地を譲渡した場合についても、その土地が先祖伝来のものであるとか、買入れた時期が古い等のため取得費がわからない場合や、実際の取得費が収入金額の5%相当額を下回る場合は、その取得費は譲渡に係る収入金額の5%相当額とすることができます(租税特別措置法通達31の4-1)。これが「概算取得費」です。

  • 2. 概算取得費により申告した後に実際の取得費が判明した場合の「更正の請求」

     譲渡した不動産の取得費を明らかにする契約書が見つからないため、譲渡所得の金額の計算上、1 .(2)の概算取得費を控除して所得税の確定申告をしたものの、確定申告期限後に取得費を明らかにする契約書が見つかり、実際の取得費が概算取得費よりも大きいという場合があります。このような場合において、国税通則法上の「更正の請求」(後述)により納めすぎた所得税の還付を受けることは可能でしょうか。以下、事例に基づいてこの「更正の請求」の可否を検討します。

    【問】
     土地の譲渡に係る譲渡所得の申告において、確定申告期限までにその取得価額を明らかにする契約書が見つからなかったため、やむなく前記1.(2)の概算取得費により所得税の申告をしました。その所得税の確定申告期限後に、譲渡した土地の取得時の契約書が見つかり、その契約書に記載の買入れ金額が概算取得費よりも大きいので、譲渡所得の金額の計算をやり直すため更正の請求をしようと考えているのですが、認められるでしょうか。

    【回答】
     当初の申告において概算取得費により譲渡所得の金額の計算を行い、その後、取得時の契約書の発見により真の控除すべき取得費がわかった時点で、その真の取得費を主張して更正の請求を行うことは認められると考えます。

    【解説】
    (1)所得税の更正の請求とは
     所得税の申告書を提出した人が、その申告書に記載した課税標準等や税額等の計算について、所得税法等の規定に従っていなかったこと、または計算に誤りがあったことにより、所得税を納めすぎたときは、法定申告期限(所得税の場合、原則としてその年の翌年3月1 5日の確定申告期限)から5 年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等または所得税額等につき減額更正の請求をすることができます(国税通則法第23条第1項)。

    ( 2 )更正の請求が認められると考える理由
     国税通則法第23条第1項第1号は、更正をすべき旨の請求をすることができる場合として、納税申告書に記載した課税標準等もしくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと、または当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを定めています。この点について、ご質問では租税特別措置法第31条の4第1項やその関係通達の規定に基づき取得費を計算していることから、前記(1)に規定する「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことまたは当該計算に誤りがあったこと」に該当せず、更正の請求ができないのではないか、という疑問が生じるところです。
     しかし、租税特別措置法第31条の4 第1 項は、その本文で「取得費は、(中略)当該収入金額の100分の5に相当する金額とする」と規定しているものの、そのただし書において、「当該金額(=概算取得費)がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする」とし、その第1号において、「その士地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額」としています。つまり、概算取得費は譲渡した土地の取得に要した金額に満たないことが証明されていない場合に適用するものであり、そのことが証明されたご質問においては、概算取得費ではなく、土地の取得に要した金額である買入れ価額により取得費を計算することが正しい処理となります。
     したがって、ご質問においては、当初申告で行った譲渡所得の金額(取得費)の計算の誤りにより所得税を納めすぎたものとして、国税通則法第23条第1項の規定により、更生の請求を行うことができると考えます。

今回のポイント

●2(. 1)の更正の請求をする場合には、 その請求に係る更正前の課税標準等または税額等、更正後の課税標準等または税額等、その更正の請求をする理由、その請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書に、更正の請求の理由の基礎となる「事実を証明する書類」を添付のうえ、税務署長に提出する必要がある。
●更正の請求には「法定申告期限(所得税の場合、原則としてその年の翌年3月15日の確定申告期限)から5年以内」という手続きの期限が定められており、期限が過ぎれば行うことができなくなるので、手続きを失念しないよう注意が必要である。

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