賃貸管理ビジネス
月刊不動産2022年12月号掲載
繁忙期の退去予定者を事前に把握し、入居率を維持する方法
今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)
Q
毎年繁忙期になると空室物件が決まってくれるのはいいのですが、一方で大量に退去者が出て空室が増えてしまいます。ある程度わかっていれば、事前に段取りや準備をすることができるのですが、予想していても毎年後手になってしまいます。入居率を維持する上でも、何かよい方法があれば教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
退去者情報を事前に把握することができれば、退去リフォームの段取りを事前に組むことができたり、3月末や4月に入ってからの退去を防ぐことができる可能性があります。入居者向けのインセンティブも必要とはなりますが、グーグルフォームなどを活用してSMSで送信することで、回収率を高めることもできます。
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はじめに
本格的に人が動き始める2月からの繁忙期は、今ある空室を埋める大きなチャンスではあるのですが、同時に既存入居者に退去されるリスクも伴います。よってできるだけ早いうちに「繁忙期の募集戦略」と「テナント・リテンション(入居者の保持)」を同時に考えておかなければなりません。
どんな物件でもこれまでの傾向があるため、おおよそどれくらい部屋が決まって、どれくらい退去者が出るのかを予想をすることはできるでしょう。しかし、あらかじめ具体的に情報を知っておくことができれば、オーナーの機会損失を減らすことにもなり、管理会社も無駄な動きをする必要がないのです。 -
退去のタイミング次第で機会損失が生じる
たとえば、2月上旬に解約の連絡が入り、実際の退去が2月末で、契約期間が3月末までというケースがあったとします。
退去をしてから室内の修繕箇所の特定、管理会社との打ち合わせなどをする時間も含めて考えると、リフォームがアップして実際に入居できるのは、退去後、相当早くても4月中旬から、普通でも下旬くらいとなります。4月下旬ともなれば、部屋探しをするニーズがひと段落しているため、3月末までという絶好のゴールデンタイムを逃してしまうことになってしまいます。
また、入居者としてみれば、実際に退去するのは2月末なのに、部屋を使わない期間でも、どうせ家賃を払うのだからとギリギリまで借りておこうという心理が働きます。
これは突然の解約を防ぐためにある「解約予告期間」というルールに縛られ、逆に機会損失を起こしてしまうことになっているのです。
仮に2月末に退去していただければ入居者は無駄な家賃を抑えることができ、オーナーとしても3月中には入居可能とすることができるので、次の入居希望者に備えることができます。3月入居可能と、4月入居可能の物件では成果に大きな差が出るのは、言わずもがなでしょう。4月以降に入居が決まらない場合、そのまま次の繁忙期まで入居者が決まらないことさえ、地域によってはあるのですから。
そこで、入居者に対して事前に通知を行い情報を把握する方法がよいのではないでしょうか。 -
入居者から事前に情報を得る方法とは
情報を得るには次の方法があります。
① 往復ハガキによるアンケート調査
② 電話によるヒアリング
③ Googleフォームによるアンケート調査①往復ハガキを使う方法は一昔前までは比較的ポピュラーでしたが、今どきは煩わしさを感じて返信してくれない人が多いため、回収率はあまり芳しくありません。
また②電話によるヒアリングという方法は、確実に情報を得ることができるのですが、突然知らない電話番号から電話がかかってくることに懸念を示す人も多いのが事実です。
一番よい方法は、③Googleフォームでアンケート項目を作成して、それを管理会社側からURLをSMS送信する方法です。
送信する目安としては、12月初旬から1月上旬にかけてがよいのではないでしょうか。あまり早すぎると、先のことは決まっていませんという回答が返ってきて、あまり成果を得ることができません。 -
質問事項のサンプル
質問の内容は、上記のようなものにするとよいでしょう。
質問の本題は「繁忙期に引っ越すかどうか」であり、それがわかれば以後ピンポイントにその入居者と接点をとっていくことができます。まずは大まかな把握をすることが戦略を立てる上でも重要なのです。
さらに3つの質問だけでは勿体ないので、できれば6~7問程度の質問も合わせて入れるようにしたいものです。過度な質問であると回収率が減るのですが、これくらいのレベルであれば回収に影響を及ぼしません。もちろん無料でというと、SMSで送信しても無視されてしまうため、「Amazonギフト券 500 円」をつけてみるのがよいでしょう。たった500円×世帯数だけで繁忙期の出入り状況が事前に掴めれば安いものではないでしょうか。