賃貸管理ビジネス

月刊不動産2022年8月号掲載

管理受託拡大戦略③~知識の強化~

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 以前から賃貸管理業務は行っていますが、賃貸仲介を基幹事業としてきたため、あまり管理戸数が増えず10年ほど700戸前後を横ばい状態です。ここのところ仲介事業の業績が思うように上がらないため、しっかりと管理事業をメインにできるように受託拡大をしていきたいと考えています。ただ、どこから着手をしたらいいのかわかりません。管理業務の内容も曖昧で、各スタッフごとにやるべき業務内容の認識に誤差が出ているように感じています。まずは、どこから着手をすればよいのかを教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     管理受託を拡大するためには、「管理内容の明確化とメニュー作り」「マーケティング」「知識の強化」の3つが大きなポイントになります。前回の「マーケティング」に引き続き、今回は「知識の強化」について解説をします。

  • 1.仕事は「現場」で覚えるのが正しいのか

     不動産管理業というと作業的なことばかりをイメージしがちですが、マーケティングや資産形成コンサルティングをはじめ、法律から税金まで、多種多様な知的業務が混ざり合っています。その業務の幅が広くて深い割には、人材育成に時間を注ぐことがおろそかになってしまいがちです。
     人員が多い大手であれば、従業員の育成やマネジメントに時間を注ぐこともできるのですが、不動産管理業のほとんどは中小企業にあたり、そこまでの時間を確保することが難しいのが現実です。中間管理職は自らがプレーヤーとして実務にあたりながら、従業員のマネジメントをしなければならないのですが、最優先事項は目の前の売り上げとなってしまうため、人材の育成が後回しになってしまうのです。
     その結果、新人社員は何も知らない状態で現場に出て、先輩社員の背中を見ながら実務を覚えることになります。しかし「いきなり現場でOJT」は、本当に効率よく学ぶことができているのでしょうか。おそらくさまざまなことを覚えることができるのですが、1つひとつの点をつなぎ合わせて線にしていくのには、相当な時間を要することになってしまうはずです。
     もちろんOJTにはOJTのよさがあり、「習うより慣れろ」の言葉のように、現場で壁にぶち当たるからこそ吸収できることがあるでしょう。しかし、新人社員の伸びしろを本当に考えるのであれば、長期的視野を考えて、OFF-JTを取り入れることが重要なのです。

  • 2.OFF-JTで、頭に体系を作る

     現場で学ぶOJTでは、点と点がつながり線になるまでには相当の時間がかかります。つまりそこまでは本当の戦力にならないのです。一方、座学を中心に学ぶOFF-JTは、仕事に関わる知識を全体を網羅する形で学ぶので、最初から一つの線として業務全体のつながりを捉えて学ぶことができます。
     たとえば、賃貸管理の仕事は誰のために、どんな目的で委託されているのか。そして行うべき業務と、その目的がどのようにつながっているのか。いきなり現場に行ってしまっては、理解しないまま、点だけを唐突に覚えることになるのです。
     「賃貸管理は、オーナーの収益最大化のために、収入を高め、支出を下げ、純利益を最大限引き出すこと」がミッションです。入出金管理も、現場での定期清掃も、クレーム対応も、全て管理会社が与えられているミッションをクリアするために存在するのです。その仕事がメインということではなく、真のオーナーの目的を達成するための付随業務だということを、しっかりと教える必要があるのです。

  • 3.資格は当然、実務に関する知識は必然

     まずは業務に関連する知識を、ミッションに照らし合わせながら順に学んでいきます。休みの日に一人黙々と不動産管理の勉強をせよと言っても、なかなかそのようなストイックな人はいないと思います。よって勤務時間中か、その前後に社員研修の時間を持つとよいでしょう。
     できれば時間を短く、頻繁に、何よりも継続することこそ重要なのです。学ぶ内容としては、管理受託・入居者募集・契約業務・入居者対応・メンテナンス業務・各種出納業務などの賃貸管理に関する業務だけでなく、オーナーが払う税金や保険、登記簿謄本の見方、減価償却なども、本来知っておくべき事項です。
     実務上、そんなことにまで関与しないという意見もありますが、管理会社のミッションを考えたとき、私たちが行うべきことは「業務」ではなく「賃貸経営コンサルティング」なのだということを再認識するでしょう。つまり経営コンサルティングは知識無くして行うことはできないために、学ぶことが必須といえるのです。
     また専門の仕事をするためには、資格を保有することは当然ともいえます。宅地建物取引士はもちろん、賃貸不動産経営管理士も今は国家資格となり、保有すべき資格となりました。不動産という専門領域で仕事をする限り、当然にして保有しておくべき資格です。
     管理戸数の増大は、一朝一夕ではかないません。これまでの3つのテーマに沿って、しっかりと時間をかけて構築することで、価値のある不動産管理会社になることができるのです。

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