賃貸管理ビジネス
月刊不動産2022年11月号掲載
空室要因を分析し、入居率を改善する
今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)
Q
ここ数年で管理戸数が順調に増え続け、少しずつ売上げがストック収入で安定してきました。ただ、受託しても入居付けが思うように進まず、空室も同時に増え続けている状況です。空室対策をしたくても、どこから手をつけていいのかわかりません。このままだと管理受託に力を注ぐことができなくなります。何かよい方法はありませんか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
管理会社の存在価値は、管理戸数の多さではなく「入居率」の高さです。空室が決まらない状況では、管理料収入も生まれませんし、オーナーからの信用も薄くなる一方です。空室となっている現状には、複数の原因があります。その原因と問題点を「なぜなぜ分析」を用いて、ロジックツリーに落とし込みます。根本的な原因を改善することで、入居付けが促進されます。さらにそれらをしっかりとオーナーに伝わるように提案をする必要があるのです。
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気づきの力
空室対策は、オーナーや管理会社の担当者が現場(物件)を見て、問題を意識するところから始まります。ただ、多くの場合、物件に問題があるという視点で見ていないため、何か問題があったとしても素通りしてしまうのです。たとえば、エントランスにチラシが散乱していたり、ゴミが放置されていたとしても、それが日常の光景であるかのように疑問を持たず、問題を意識しないのです。
これは「汚れている事実」を気にしていないから起こります。「気づかない」ことは、いわば問題として捉えることができていないのですから、これではいつまで経っても空室が埋まることはないでしょう。
「問題点がある」→「見て気づく」→「分析」→「改善提案」→「改善」をしていけば、よほど市況が悪いエリアでない限り、空室対策は効果を発揮するでしょう(図表1)。
管理会社が行うべき業務は無数にあり、現場スタッフは日々多忙を極めます。よって「〇〇マンション〇〇号室の空室を埋める」という明確な目的意識を持たないと、肝心な空室対策が日常業務に埋もれてしまい、おろそかになってしまいます。その結果、何よりも肝心な空室対策が推進されなくなってしまうのです。ですから、空室で困っている場合には、まずは「問題を発見することを目的」に現地に行くようにしましょう。 -
なぜなぜ分析
物件の現地に着いたら、物件と敷地全体をくまなくまわって問題点を見つけます。カテゴリーとしては、「エントランスと共用部分」「室内」「外構と植栽」に分けてみましょう。そこから問題点を抽出していきます。空室物件は、おそらく問題点が1つではなく、複数あることに意識を向けなければいけません。当たり前のことでも、事実をあえて書き出してみます。そこから本当の問題点を探っていきます。
ここで項目を「なぜなぜ分析」というロジックツリーに落とし込んでいきます。「原因」と「結果」を、「なぜ」「だから」という関係で結んでいくのです。問題の本質を探らなければ、改善はできないのです。たとえば、長期空室物件の現地に行ったら、共用部分が汚れているという問題があったとします。
長期空室で困っている→(なぜ)→エントランスにチラシが散乱している→(なぜ)→定期清掃されていない→(なぜ)→オーナーが清掃費用を出さない→(なぜ)→清潔性と入居率アップに因果関係があるということが結びついていない→(なぜ)→管理会社がその必要性をオーナーに伝えていない、というロジックを組み立てることができます。その状況がわかったら、満室になっているライバル物件の情報や写真を見てもらい、このままだと競争優位にならないことを、オーナーに伝えます(図表2)。 -
問題点を指摘し提案をする
問題点となぜなぜ分析を行ったら、オーナーに改善提案をしなければなりません。一番よくないことは、何も提案をすることなく、空室のまま放置することです。仮に管理物件に100室の空室があったとすれば、その1つの空室は、管理会社としては100室あるうちのたった1つに過ぎないかもしれません。しかし、オーナーとしてみれば任せている管理会社は一社だけで、提案が全くないということは不信感につながります。そして、一度後手にまわると、提案も聞いてもらいにくくなり、信頼関係さえ薄くなる可能性があります。
提案は先手を心がけ、多少ずれた提案で叱られたとしても、何も言わないよりは全然よいのです。実際に私が保有している物件も、こちらからアクションをしなければ何の連絡もしてこない管理会社があります。地域では最大手と言われているようですが、管理戸数が多いことと、管理の質は全く別であることを身をもって経験しています。物件一つ一つにしっかりと向き合い、問題点を発見し改善をすることで、少しずつ入居率は高まるはずです。問題の本質を探り、入居率を高めることこそ、管理会社の存在価値と言えるのではないでしょうか。