賃貸管理ビジネス

月刊不動産2024年7月号掲載

空室を不正利用した犯罪と、再発防止のためのヒント

代表取締役 今井 基次(みらいず コンサルティング株式会社)


Q

 先日、当社に警察から突然一本の電話が入りました。空室になっている管理物件にて「不法取引が行われている可能性がある」ということでした。内容を聞くと、海外から送られてきた荷物が未入居の空室宛てになっており、その送付物に薬物または大麻が含まれていて、その受け渡しに使われた形跡があるそうです。
 当社の管理物件は、内見用に、キーボックスを共用部分に設置しているので、どこからかそのキーボックスの暗証番号が漏れ、不正に利用された可能性が高いと考えられます。半年を超す長期空室のため、また同様の手口で空室が利用されないとも限りません。何かよい対策方法があれば教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  内見を促すために長年利用されてきたキーボックスですが、管理の都合上、4桁の番号を固定しているケースがあるようです。確かに、管理戸数が多い場合、物件ごとに暗証番号を変えていると、人手不足の折に内見や清掃をする際や、また修繕の際の業者とのやり取り等が煩雑になってしまいます。セキュリティを高めるためには、「キーボックスの番号を頻繁に変更する」「スマートキーを設置する」「セキュリティカメラを設置して不正利用を抑止する」などの方法を検討しましょう。

  • 空室が荷物の受け取り場所に?

     管理会社やオーナーが知らない間に、物件の空室で犯罪行為が行われていることがあるようです。スキミングやフィッシング詐欺などで得た他人のクレジットカード情報を不正利用して、通信販売で物品などを購入し、荷物の受け取り場所を空室に設定しているということです。配達時間を指定し、その時間だけ物件の室内に侵入して待機することができれば、配達員は疑う余地がないので、足がつくことなく荷物を受け取ることができてしまいます。
     さて、そもそもなぜ、空室を使ってこのような事件が起こってしまうのでしょうか。このようなやり方は、賃貸業界における空室の鍵管理の方法を知っていなければできないはずで、その抜け穴を利用しての犯罪であると思われます。

  • 「現地キーボックス」が、 不正利用者に狙われる

     全国的に、空室の鍵はキーボックスを利用して、現地に設置している場合が主流といえるでしょう。以前は、管理会社や物件の最寄りの不動産会社で預かってもらうといったこともありましたが、案内するたびに手間がかかるため、最近では少なくなりました。管理会社としても、大量の鍵を管理していると、空室が増えるほど管理上の手間が増えるので避けたいはずです。私の所有する物件は、建物の目立た
    ない場所にキーボックスが埋め込まれているため、設置している場所と番号さえわかれば、容易に空室に侵入することができてしまいます。あってはならないことですが、もしも、このような賃貸取引特有の事情を知っている人(つまり業界経験者)が犯罪者に情報を渡せば、物件の空き確認をして空室情報を知り、内見を装ってキーボックスの開錠方法を入手し、空室を不正利用して物品を受け取ることができてしまうのです(図表1)。

     

    図表1:内見を装った犯罪

    内見を装ってキーボックスの開錠方法を入手し、室内で不法取引等の犯罪を行う
  • 特定の暗証番号は 狙われやすい

     部屋ごとにキーボックスの番号を変えている場合もありますが、管理会社によっては、すべての空室をいくつかの共通の番号に設定していることがあります。たとえば、「A管理会社のキーボックスは『1234』または『5678』」など、どちらかのパターンで解除できることがわかっていれば、空室さえ特定できれば、内見を装って開錠方法を確認することなく開錠できてしまいます。すると、いくら内見の管理をしていても「いつ」「誰が」部屋に入ったのかわからなくなります。

  • 「置き配」が標準化されれば、 リスクが増える

     さらに、最近、業界最大手の宅配業者が「置き配」を標準化し始めました。これを悪用すれば、今までよりも接点なくして物品を受け取ることができるようになるため、今後このような事件がさらに増える可能性があります(図表2)。これらを完全に防ぐことは難しいのですが、いくつかの再発防止策が考えられます。

    ・ 防犯カメラの設置(空室を不正に利用されないための抑止、証拠を押さえる)

    ・ オートロックの設置(空室を不正に利用されないための抑止)

    ・ スマートロックの設置でログ管理(「いつ」「誰が」内見したのか、ログの管理)

     

    図表2:置き配を利用した犯罪

    他人のクレジットカード情報を不正利用して通販で物品を購入し、荷物の送付先を空室に設定して「置き配」で受け取る

     もちろん、上記ですべてを抑止できるわけではありませんが、犯罪に利用される可能性は格段に減るはずです。オートロックや防犯カメラが設置されていないと、再び同じ物件が狙われる可能性があるだけでなく、証拠が得られないと犯人を特定することも難しいのです。物流に関しては、今後さらに効率化される部分が増え、利用者からすれば便利に感じることもあるでしょう。しかしその反面、管理会社としては、空室物件が増えるほど犯罪の温床となる可能性があることをしっかりと認識しておかなくてはなりません。

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