税務相談

月刊不動産2004年6月号掲載

法人解散前の不動産譲渡と解散後の不動産譲渡

代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

当社は解散する予定でいますが、創業以来長期にわたって保有している含み益のある土地の処分は解散の日前に行うのと解散の日後に行うのとどちらが有利でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  原則として、解散する法人に売却益に対応するような営業損失や税務上の青色繰越欠損金があれば解散決議前の解散事業年度に売却しても問題ありません。含み益に対して青色欠損金額が少なく、それ以前に発生した欠損金があり、債務超過状態に陥っていれば清算事業年度に売却した方が有利です。

     含み損をもった土地等を保有した法人がその土地等を譲渡すると、譲渡益に対して法人税・住民税・事業税が課税されます。含み益に対する法人税等の実効税率は40%強です。しかし、主たる資産が不動産のみでその不動産の賃貸事業だけを営んでいる会社では、不動産売却の翌期以降は所得が計上されず、翌期支払った事業税が損金算入されてもそれと相殺するべき利益がないため法人税・住民税の所得減少にはつながらず、結果として45%弱の法人税等を負担する結果となります。
     また、不動産の売却代金は法人の手元資金となるだけで、株主が自由に使える資金ではありません。売却代金を株主の手元に還元するためには、利益処分によって株主に配当をする必要があります。個人株主の配当所得は、最高税率50%の総合課税ですので、株主の手元に残る資金は法人の不動産売却代金の3割前後にしかなりません。
     このため、株式で売却する不動産M&A方式が活用されています。株式売却益の20%の申告分離課税で済みます。不動産M&Aについては、別稿で説明致します。
     ところで、法人が解散すると、法人の事業年度は、解散の日を境にして解散の日を含む「解散事業年度」と解散の日の翌日(清算開始日)から残余財産確定の日までの「清算事業年度」に二分されます。解散事業年度は、従来の通常営業事業年度と同じく期間利益に対して課税を受ける最終事業年度です。清算事業年度は通常の営業活動を停止していますので、期間損益計算の観点ではなく会社の清算所得(資産-負債)に対しての課税を受けることになっています。

    (図)
     

     不動産売却に際して、青色繰越欠損金、役員・従業員の退職金、事業整理損等の金額がその売却益を上回っていれば、不動産を解散事業年度で売却しても問題ありません。しかし、逆の場合には、法人税等の負担を強いられることになります。
     清算事業年度においては財産法により課税所得が算定されます。清算所得とは清算期間中に資産の売却等により実現した所得のことで、残余財産の価額から解散時の資本等の金額(資本金額と資本積立金との合計額)と利益積立金との合計額を控除して算出されます。残余財産の価額とは、資産の売却代金から負債を控除したもので、資本等の金額とは資本の部のうち資本金、資本準備金と課税済所得の合計額のことで、課税済所得の合計額とは利益準備金、任意積立金、別途積立金、前期繰越利益等の合計額、と理解すればよいでしょう。
     債務超過会社は債務(負債)が資本を上回っているということですから、財産法計算では、所得がゼロとなり、法人税等の課税を受けることはありません。繰越欠損金があるが青色繰越欠損金等では不動産の売却益に届かず法人税の課税を受けてしまう、というような法人については、清算事業年度で不動産を売却した方が有利となります。
     なお、債務超過又は債務超過の疑いがあるときは、清算人は裁判所に特別清算の申立てをする必要がありますが、債権者(通常は連帯保証人である同族株主又は親会社等)からの債権放棄が決まっていれば、それほど問題にはなりません。

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