税務相談
月刊不動産2012年3月号掲載
法人地主による定期借地権の設定と権利金の認定課税
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
法人が所有する土地に権利金の収受なしで定期借地権を設定した場合の法人税の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.法人の普通借地権の設定と権利金の認定課税
(1)原則
法人が普通借地権の設定により所有土地を他人に賃貸し、建物などを建てさせた場合に、権利金を収受する慣行があるのに権利金を収受しないときは、権利金の認定課税が行われます(法人税法22条2項、法人税法施行令137条)。
(2)権利金の認定課税がされない場合
次のいずれかに該当する場合には、上記(1)にかかわらず、権利金の認定課税は行われません。
①その土地の価額からみて相当の地代(その土地の更地価額のおおむね年6%程度)を収受している場合
②その借地権の設定等に係る契約書において、将来借地人がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、「土地の無償返還に関する届出書」を借地人と連名で遅滞なくその法人の所轄税務署長に提出している場合
2.法人の定期借地権の設定と権利金の認定課税
(1)法人税法施行令137条の借地権の範囲
次に、権利金の収受なしで定期借地権を設定した場合、前述1.の法人税法施行令137条や相当の地代に係る法人税基本通達等の適用を受けるかどうかについて考えます。
法人税法施行令137条は、「借地権若しくは地役権の設定により土地を使用させる行為をした内国法人については、権利金を収受する取引上の慣行がある場合においても、当該権利金の収受に代え、当該土地の価額に照らし当該使用の対価として相当の地代を収受しているときは、当該土地の使用に係る取引は正常な取引条件でされたものと認める」というように規定しています。
一方、借地借家法上の借地権は、「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と規定されています(同法2条)。137条の借地権に比べ「建物の所有を目的とする」という限定がついている分だけ範囲が狭く、同法上の借地権は、137条の借地権に含まれるものといえます。
定期借地権は借地借家法22条で定められています。存続期間を50年以上とした借地権であれば、更新がないなどの一定の特約を付けることができ、その特約付きの借地権の設定を定期借地権として認める旨定めています。定期借地権は特約付きの借地権ですから、借地借家法2条の借地権の一種です。つまり、法人税法施行令137条の借地権は、定期借地権を含むことになります。
(2)法人税法施行令137条の前提条件
ただし法人税法施行令137条は、土地の使用に際して「権利金を収受する取引上の慣行があるとき」を大前提にしています。借地権の設定により自己の土地を使用させた場合、その地域に、使用の対価として通常権利金を収受する取引上の慣行があるときに、その慣行を無視して権利金の収受なしに借地権の設定に応じることは、経済取引として極めて不自然不合理です。そのような取引を行う場合は、借地人に権利金に見合うだけの利益を与えることになる、というのが法人税法の基本的な考え方です。このため、地主である法人において権利金の相当額の収益が実現し、同額を借地人に贈与(寄附)したものとされます。
しかし、権利金の収受に代えて相当の地代を収受することで取引が成立することも考えられます。そこで、法人税法施行令137条は、「権利金の収受に代え」つまり権利金を収受していなくとも、その「土地の価額に照らし当該使用の対価として相当の地代を収受しているときは、当該土地の使用に係る取引は正常な取引条件でされたもの」と認め、権利金相当額の収益実現と贈与を同時に認定する処理は行わないと規定しています。「相当の地代」は「権利金の収受に代え」収受すべきとされていますので、同条は土地の使用に際して「権利金を収受する取引上の慣行があるとき」を適用の前提にしているわけです。
(3)結論
従来の普通借地権は、借地人に強い権利が与えられるため土地の価額がいわゆる底地価額まで低下してしまう見返りとして、高額の権利金を徴収する必要性があります。これに対し、定期借地権はその期間が過ぎれば土地が確実に所有者の手元に戻り、立退料も不要のため、その必要性がもともと薄いといえます。現在の取引実務でも、定期借地権の場合は権利金を収受する慣行は成立していません。
定期借地権は、法人税施行令137条の借地権には含まれるものの、同条適用の前提条件を欠いていることから、定期借地権には法人税法施行令137条は適用されず、同条の適用を前提として相当の地代の基準等を示す法人税基本通達その他の借地権関係の通達も適用されないと考えます。