賃貸相談
月刊不動産2023年7月号掲載
更新しない連帯保証契約と改正民法の適用の可否
弁護士 江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所)
Q
当社では、平成30年5月1日、賃貸アパートの部屋を賃借人Aに賃貸するにあたり、賃貸借期間を2年、賃借人Aの父親であるYを連帯保証人として賃貸借契約を締結しました。Yとの連帯保証契約には「当社と賃借人Aとの賃貸借契約が合意更新あるいは法定更新された場合も同様とする」との記載をしています。
その後、令和2年5月1日、賃借人Aとの賃貸借契約を合意更新しました。それから間もなく、Aが令和2年7月分以降の賃料を滞納したので、連帯保証人Yに請求したのですが、Yは「令和2年4月1日に改正民法が施行されており、個人との連帯保証は極度額を定めなければならないことになったのにYとの連帯保証契約には極度額の定めがないので連帯保証は無効」と言ってきました。連帯保証は無効となるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
令和2年4月1日以降に新規に契約する賃貸借契約の、個人の保証人との間では極度額を書面等で定める必要があります。施行日前に契約した賃貸借の保証は、施行日を経過した後も極度額の定めがなくとも有効ですが、施行日以降に保証契約を更新する場合は、極度額を定めなければ保証は無効であるとするのが法務省の見解です。
ただし、施行日の後に賃貸借契約を更新しても、保証契約を更新していない場合は、保証契約には相変わらず旧法が適用されますので、極度額を定めていない場合でも保証契約は無効にはなりません。 -
1.改正民法による個人保証契約の新たな規制
平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律(債権法)が成立し、令和2年4月1日から施行されています。改正民法では、賃貸借契約の保証人が個人である場合には、保証契約には極度額(保証人の責任限度額)を書面または電磁的記録(以下「書面等」)により定めなければならないと規定されています(改正民法465条の2)。
このため、令和2年4月1日以降に新規に個人を保証人として保証契約を締結する場合は、必ず極度額を書面等で定めなければ保証契約は無効となります。 -
2.改正民法施行前に締結済の保証契約
令和2年4月1日より前に契約した保証契約(以下「既存の保証契約」)は、改正民法は原則として施行日以後に締結する契約に適用されますので、既存の保証契約は施行日以降も極度額を書面等で定めなくとも有効とされます。ただし、施行日より後に保証契約を更新した場合は、見解の相違はありますが、更新後の保証契約には改正民法が適用され、極度額を書面等で定めない限り保証契約は無効と解するのが法務省の見解です。
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3.保証契約の更新とは?
ご質問のケースでは、Aとの賃貸借契約の更新手続きは取られていますが、Yとの連帯保証契約は何も手続きが取られていないようです。この場合でも、Yは賃貸借契約更新後のAの債務について、保証人としての責任を負いますが、保証契約も更新したことになるのでしょうか。
この点について明らかにした裁判例があります(東京地判令和3年4月23日)。このケースは、改正民法施行前に、賃貸借契約の保証人として個人であるXと連帯保証契約を締結したものですが、保証契約には「Xの連帯保証債務については、本契約が合意更新あるいは法定更新された場合も同様とする」と定められ、期間満了時に賃借人と賃貸借契約の更新手続きはとられましたが、保証人Xとは何の手続きもしていなかったという事案で、保証人Xが、本契約は更新されたが、更新の際に極度額が定められなかったことにより、更新後の連帯保証契約は無効であると主張した事案です。
これに対し、判決では、本件連帯保証契約は改正民法の施行日より前に締結されたものであり、その後、本件賃貸借契約の更新に合わせて同保証契約が更新されることもなかったから、改正民法の適用がなく、極度額を定めていなくとも保証契約は有効であると判示しました。
賃貸借契約が更新され、更新後の債務について保証人が責任を負うとしても、保証契約の更新手続きがなされていない限り、改正民法は適用されないとしていることにご留意ください。