賃貸相談

月刊不動産2010年2月号掲載

敷金・保証金の利息

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

退去したアパート借家人に敷金の精算をしようとしたところ、借家人から「利息は付かないのですか」と聞かれました。賃貸借契約には利息については何も書いてありませんが、利息を払う必要があるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.敷金・保証金の法的性質

     敷金とは、賃貸借契約において、賃借人が賃貸人に対して負担する賃料支払債務や原状回復債務等の賃貸借契約上の債務を担保するため、賃借人から賃貸人に対して預託する金銭をいいます。敷金は、将来、賃貸借契約が終了し、賃借人が賃借物を明け渡したときに返還義務が発生するものと考えられています(最高裁昭和48年2月2日判決)。

     保証金の場合は、ビル賃貸借の場合に、敷金、建設協力金等とともに交付される場合や、保証金のみが交付される場合などいくつかのバリエーションがありますが、いずれも賃貸借契約締結に伴い賃貸人に交付される金銭で、将来的に、契約に定めた時期に、契約で定めた金額が返還される金銭をいいます。その法的性質は、①金銭消費貸借契約に基づく貸付金、②建設協力金(金銭消費貸借契約と賃貸借とが結合した無名契約)、③敷金等、いろいろなものがあり得るといわれています。建物賃貸借契約においては、保証金の額が賃料の6~12か月分程度であって、賃借人が賃貸人に対して負担する賃料支払債務や原状回復債務等の賃貸借契約上の債務を担保するために交付されるものであることが明記されているものは、法的性質は敷金であると解することが可能です。

    2.敷金・保証金と利息
     敷金・保証金は、少なくとも賃貸人が賃貸借契約の存続期間中は預かっているものですから、その期間中に賃貸人が敷金・保証金を運用すれば、かなりの運用益が得られるはずです。この運用益を賃貸人が取得することは当然に認められるものでしょうか。

    (1) 一般的な賃貸借契約における敷金・保証金の合意内容一般の賃貸借契約においては、賃貸人が、賃借人に対して敷金・保証金を返還する場合については、「敷金(保証金)は無利息とする」と規定されており、仮に賃貸借契約が15年間継続し、賃貸人が敷金を15年間運用して利益を得ていた場合であっても、賃貸人は敷金の元本額から未払賃料等の賃借人の未払債務を控除した残額のみを返還すれば足りる旨が定められていることが多いと思われます。実務上も、敷金・保証金の運用益は賃貸人の得る賃貸物を使用収益させることの対価の一部であると認識されています。

     これは、賃貸借契約において、賃貸人と賃借人とが保証金については、これを返還する際は無利息として精算することで構わない旨を合意していますので、契約の拘束力の一場面として理解されます。それでは、賃貸借契約書には、敷金・保証金については無利息とするとも、利息を支払うとも記載されていないような質問のケースでは、どのように考えるべきなのでしょうか。

    (2) 賃貸借契約に敷金・保証金の利息についての定めがない場合

     この問題は、一般に将来返すべき金銭の交付を受けた場合に、その金銭を返還する際には利息が必要かという問題です。この点については、今時お金を預ければ利息を付けて返すのはあたり前ではないかと考える方も多いかと思います。銀行預金や郵便局の貯金などお金を預けたのであれば利息が付くのは常識ではないかとの考え方もあり得るとは思います。

     それでは、民法では、金銭を貸し付けた場合に利息は当然に発生すると定めているのでしょうか。貸付金について規定している民法第587条では、金銭消費貸借契約の場合は、借主が金銭を返還することを約束して貸主から金銭を受け取ることにより効力を生ずると定めています。要するに、金銭を貸し付ける場合であっても、利息を付することは金銭消費貸借契約の成立要件とはされていないのです。利息についての定めがないということは、利息の約束がない以上はお金を貸し付けても利息はつかないということを意味しています。

     貸付金についてすら、利息の約定がない限りは利息は付かないとされているのです。敷金や保証金は賃借人の債務の担保として預かる金銭であり、法律上利息をつけるという定めはありませんので、賃貸借契約で利息の定めを付していない限り、無利息ということになります。

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