法律相談
月刊不動産2023年4月号掲載
投資物件の購入判断にかかわる重要情報の説明義務
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
投資用ワンルームマンション3室を総額約2,500万円で購入しましたが、購入後、購入価格が相場とは大きく離れた高額で、勧誘時に示された試算表もずさんなものだったことを知りました。売主の担当社員に損害賠償を請求できるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
説明を受けた実勢価格(客観的価値)を大幅に上回り、また示された投資計画がずさんなものだったのであれば、調査説明義務違反があると考えられます。損害賠償請求が可能です。
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1.説明義務
不動産業者は不動産取引の専門家であり、不動産の買主に対して、真摯に不動産購入に関する判断の材料を提供する義務があります。特に、投資物件を不動産についての専門的知識のない一般の買主に対して販売しようとするときには、投資物件の実勢価格を調査し、適切な投資計画を示して販売を行わなければなりません。東京地判令和4.1.28-2022WLJPCA01288029では、ワンルームマンションの販売を担当した売主の担当社員の責任が認められました。
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2.東京地判令和4.1.28
Ⅰ 事案の概要
(1)Xは、25歳の学校教師である。A社は、平成26年2月に設立された不動産会社であり、Yは、A社の営業担当の従業員である。
(2)Xは、Yから勧誘を受け、平成28年9月8日、投資用ワンルームマンション3室(物件①〈13.83㎡、850万円〉、物件②〈14.51㎡、870万円〉、物件③〈14.70㎡、750万円〉、以下「本件各マンション」)について、A社を売主、Xを買主として売買契約を締結した(以下「本件売買契約」)。Xは売買代金の全額を25年ローンの返済計画により信販会社からの借り入れでまかなった。
なお、A社はこの3物件を、本件売買契約後の平成28年9月13日に、B社から「物件①520万円」「物件②520万円」「物件③420万円」で購入しており、Xへの所有権移転登記手続は、同月28日、B社から直接移転する形式で行われた。
A社については、平成30年10月17日、破産手続開始決定がなされている。
(3)Xは、令和元年5月10日、訴えを提起した。
(4)Xは、令和元年8月にはローンの支払いに窮し、信販会社から指定された不動産業者に対して、物件①を390万円、物件②を390万円、物件③を20万円で、それぞれ売却している。
(5)令和4年1月28日、裁判所は、Yに説明義務違反があったとしてXの請求を認め、Yに損害賠償を命じた。Ⅱ 裁判所の判決
判決では、Xが投資未経験で、不動産取引や投資に関する知識が乏しかったことから、『総額2,470万円に上る高額な不動産投資を勧誘するにあたっては、Yにおいて、投資内容に関わる重要な情報とリスクについて、必要かつ相当な範囲で正確な情報を提供すべき信義則上の義務があった』としたうえで、『YがXに示した本件試算表の内容によると、Xが本件各マンションを購入した場合の年間収支について、ローン支払額と家賃収入および管理費・修繕積立金の額を考慮し、物件①につきプラス1万7,280円、物件②につきマイナス1万9,404円、物件③につきプラス8万6,100円となる旨の試算がされている。
しかし、同試算は固定資産税等の経費について考慮しないものであるなど、実際の年間収支において利益が見込める内容ではなく、また、値上がりが見込める要素はなかったことからすると、一定の年数経過後にそれらを転売した場合に、返済期間25年のフルローンを組んで本件各マンションを購入したXにとっては、売却益が得られる見通しがあったともいい難く、本件試算表による投資計画は、それ自体が合理性に疑問のあるものであったといわざるを得ない。
そして、Xに対する本件各マンションの販売価格は、Xが第三者に本件各マンションを売却した価格を大幅に上回っており、A社が本件各マンションを購入した価格と比較しても、1.7倍前後の相当高い金額であったことからすると、Xに対する本件各マンションの販売価格は、本件売買契約締結当時の実勢価格を相当程度上回るものであったと認めるのが相当である』として、Yについて、投資に関わる重要な情報についての説明義務違反による責任を認めた。 -
3.専門家としての責任
不動産業者は、不動産取引を行おうとする依頼者に適切な情報を提供しなければなりませんが、なかでも経験の乏しい買主に投資物件を勧めるような場合には、不動産業者には重い責任が課されます。本件で紹介したようなケースは、個別の買主に損害を与えるだけではなく、不動産業者全体への社会的な信頼を損ないます。この機会に再確認していただきたいと考えます。