法律相談
月刊不動産2006年2月号掲載
建築確認前の建物売買契約
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
当社では建売住宅を分譲する計画を進めていますが、これから建築確認の手続をして建築を開始しようとしている住宅について、購入を希望しているお客様がいます。建物の売買契約を締結してよいでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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売買契約の締結をすることはできません。建築確認前の売買契約は、宅地建物取引業法により禁止されています。
物件の完成前に販売を行うことを青田売りといいます。青田売りは、業者にとっては早期の資金回収を可能にし、また購入者にとっても完成直後の住宅ですぐに生活を開始することができるというメリットがあります。そのため一般に、新築の戸建住宅やマンションについては、業者が完成予想図を示すなどして、青田売りによって販売がなされています。
しかし青田売りの場合、物件が完成していない段階で販売を行うために、業者の示した物件と実際に完成した物件が食い違うなどのトラブルが発生しがちです。そのために宅地の造成工事又は建物の建築工事の完了前には、都市計画法29条の許可(開発許可)や建築基準法6条1項の確認(建築確認)等、造成や建築のために必要な手続が完了した後でなければ、広告をしてはならず(宅地建物取引業法33条)、また売買、交換の契約を締結してはならないとされています(同法36条)。建物の青田売りによる契約締結についてみると、トラブルを防止するため、宅地建物取引業法により、建築確認を得た後でなければ売買契約を締結することはできないとして、契約締結の時期が制限されているわけです。
この契約締結時期の制限は、業者自らが売買契約の売主になる場合に限りません。業者が代理人となり、あるいは業者が媒介をする場合にも制限を受けます。ところで建築確認を受ける前に、建築条件付土地売買契約(一定期間内に建物を建築する請負契約を結ぶことを条件として土地を販売する契約)を締結して、かつ建物請負契約を締結しておき、建築確認を受けた後に、建築条件付土地売買契約と建物請負契約を合意解除した上、土地建物の売買契約に一本化して新たな契約を結ぶという方法による取引がなされる場合があります。この一連の取引は契約締結の時期の制限に直接に違反するものではありませんし、建築条件付土地売買契約と建物請負契約を合意解除して土地建物の売買契約に一本化することは違法行為とはいえないという裁判例もあります(神戸地裁平成15年4月17日判決)。けれども宅地建物取引業法の上からは問題があるとされています。
すなわち、まず建築条件付土地売買契約そのものは違法な契約でも不適当な取引でもありません。しかし、これを違法あるいは不当な目的のために利用してはならないのは当然です。業者が、青田売りに関する契約締結時期の制限など法律上の規制を不当に回避する目的で、建築条件付土地売買契約を利用し、あるいはこれを利用した取引に関与することは許されず、このような行為が行われたときは、宅地建物取引業法違反にもなり得ます。
建築条件付土地売買契約と建物請負契約を、土地建物の売買契約に一本化して差し替えた取引に、業者が媒介として関与した事案について、業務停止の処分がなされたケースが公表されています。このケースでは、取引が宅地建物取引業法に違反する理由として、(1)契約書を一本化して差し替えたことが65条1項2号に該当し、(2)差替え後の土地付建物売買契約書の代金の額を、取引に係る代金の額として、媒介報酬の対象外である建物請負代金をあわせて記載して、国土交通大臣の定める媒介報酬の上限額を超過する、不当に高額の報酬を要求したことが47条2号にあたり、(3)差替え後の契約において、媒介に関する書面を交付していなかったことが、34条の2第1項の違反になるという行政の判断が示されています。これらの業法違反があわせられ、業務停止という厳しい処分が下されたわけです。
業者としては、宅地建物取引業法違反となる取引は厳に慎まなければなりません。また一般消費者の取引に関与するに際しては、一般消費者が専門知識を持ち合わせていないことを十分に配慮する必要があります。合意解約や契約書差替えなど難解な法律構成によって一般消費者を困惑させること自体で、業者としてのモラルに反すると考えるべきです。