税務相談
月刊不動産2012年9月号掲載
平成24年度改正・事業用資産の買換え特例の見直し
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
平成24年度税制改正で見直された譲渡所得に係る事業用資産の買換え特例について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.事業用資産の買換え特例の概要
(1)制度の概要
個人が長期所有の不動産を譲渡した場合、譲渡益に対して20%の税率で所得税と住民税が課税されます。個人が事業内容の転換を図るため、所有する事業用資産を譲渡して別の事業用資産を購入したい場合であっても、納税のために譲渡代金のうち新しい資産の購入代金に充てる額が限られてしまいます。そこで、税制面で個人事業者の事業や所有資産の転換を後押しするため、一定の条件を満たした事業用資産の買換えに係る譲渡については、原則として譲渡益のうち80%部分の課税を繰り延べ、譲渡益の20%のみに課税する制度が設けられました。これが「事業用資産の買換え特例」です。なお、法人にも同様の特例があります。
事業用資産の買換え特例のうち、「国内であれば譲渡資産・買換資産ともに所在地を問わない」という使い勝手の良さから、よく使われてきたのが「長期所有の土地建物等から土地建物等への買換え(9号買換え)」です。
(2)特例の適用を受けた場合の譲渡所得の金額の計算
この特例の適用を受けた場合の譲渡所得の金額の計算は、次のとおりになります。
①譲渡資産の譲渡価額≦買換資産の取得価額の場合、譲渡価額に20%を掛けた金額を収入金額とし、この収入金額に対応する譲渡所得の計算を行います。
②譲渡資産の譲渡価額>買換資産の取得価額の場合、「譲渡資産の譲渡価額-買換資産の取得価額×80%」を収入金額とし、この収入金額に対応する譲渡所得の計算を行います。
2.平成24年度税制改正の概要
(1)買換資産の要件の見直し
平成24年度税制改正により、9号買換えについて、一部見直しをしたうえで、平成26年12月31日まで延長されました。
9号買換えにおいて、改正前の買換資産の要件は、「国内にある土地等、建物、構築物又は機械及び装置又は国内にある鉄道事業の用に供される車両及び運搬具のうち政令で定めるもの」でした。この「国内にある土地等」の要件が、次のとおりとされました。
①特定施設の敷地として使用されるもので、面積が300㎡以上のもの。なお、この土地等には、その特定施設に係る事業の遂行上必要な駐車場として使用されるものを含みます。
②駐車場として使用されるもので、建物又は構築物の敷地として使用されていないことについて政令で定めるやむを得ない事情があるもので、面積が300㎡以上のもの。
(2)特定施設の範囲
前述(1)①の「特定施設」に該当するのは、事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設をいいます。ただし、これらの施設のうち、福利厚生施設に該当するものは除かれます。
したがって、賃貸住宅の敷地は買換資産として認められます。これに対し、福利厚生施設である社宅の敷地は対象外となります。
(3)「やむを得ない事情」の範囲
前述(1)②の政令で定める「やむを得ない事情」とは、次の①から④までの手続その他の行為が進行中であることにつき、一定の書類により明らかにされた事情をいいます。
①いわゆる開発許可の手続
②いわゆる建築確認の手続
③文化財の発掘調査
④建築物の建築に関する条例の規定に基づく手続で、建物または構築物の敷地として使用されていないことがその手続を理由とするものであることについて、国土交通大臣が証明したもの
(4)買換資産として取得した土地等の面積の判定
買換資産として取得をした土地等の面積が300㎡以上であるかどうかの判定について、その土地等が2以上の者の共有とされるものである場合は、その土地等の総面積にその者の共有持分の割合を乗じて計算した面積をもって判定します。
例えば、総面積が1,000㎡である土地等のうち、その人の共有持分の割合が5分の1である場合、判定に係る面積は、持分を考慮後の200㎡となります。
また、買換資産として取得した土地等が、区分所有に係る特定施設の敷地の用に供されるものである場合、判定に係る面積は、上記①の場合と同様に、その区分所有に係る専有部分の床面積の割合を掛けて計算します。