税務相談
月刊不動産2012年5月号掲載
平成23年度税制改正 消費税の納税義務の免除の特例
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
平成23年度税制改正で見直しがされた消費税の納税義務の免除の特例について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.平成23年度改正前の納税義務の免除の特例
(1)制度の仕組み
中小事業者の納税事務負担等に配慮するため、その課税期間(原則、個人事業者は1月1日から12月31日まで、法人は事業年度)の基準期間における税抜きの課税売上高が1,000万円以下の法人又は個人事業者は「免税事業者」とされ、消費税の納税が免除されます。
この免税事業者に該当するかどうかの判定期間となる「基準期間」は、原則、個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度となります。
(2)新設法人の特例
新設法人の設立事業年度(1期目)と2期目は、基準期間がないため免税事業者となるのが原則です。ただし、設立1期目と2期目のように基準期間のない事業年度であっても、その事業年度の開始日における資本金額が1,000万円以上である法人は、納税義務が免除されません。
2.平成23年度改正による納税義務の免除の特例の見直し
(1)制度の概要
平成23年度税制改正により、前述1.の規定で消費税の納税義務が免除される個人事業者又は法人であっても、特定期間(原則、個人事業者はその年の前年1月1日から6月30日、法人はその事業年度の前事業年度の開始日から6か月間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間について課税事業者となります。
なお、特定期間の課税売上高に代えて、同期間の給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたかどうかにより、納税義務の免除を判定することもできます。
この改正は、平成25年以後の消費税について適用となり、特定期間による納税義務の免除の判定は、平成24 年1月1日から始まります。
(2)個人事業者又は事業年度が1年の法人の特定期間
個人事業者の場合はその年の前年1月1日、法人の場合はその事業年度の前事業年度の開始日からの6か月間が、特定期間となります。
例えば、それまで事業を行っていなかった個人がその年の前年の5月1日に開業した場合、その年の5月1日から6月30 日までの課税売上高(又は給与等支払額)で判定します。これに対し、その年の前年7月1日から12 月31 日までに開業した場合、特定期間の課税売上高(又は給与等支払額)がないため、判定は不要です。
(3)設立事業年度が1年未満の法人の2期目の特定期間
新設法人の場合、設立事業年度(1期目)が1年未満のケースがあります。このような法人の設立2期目における特定期間の考え方について、事例により解説をすると、次のようになります。
①設立事業年度が8か月以上である場合
例えば平成24年5月1日に設立し、同年12月31日に設立1期目の決算期末を迎えた法人の場合、設立2期目の消費税の納税義務の免除の判定上、平成24年5月1日から10月31日までの6か月間が特定期間となります。
②設立事業年度が7か月超8か月未満である場合
例えば平成24年5月15日に設立し、同年12月31日に設立1期目の決算期末を迎える法人の場合、設立2期目の消費税の納税義務の免除の判定上、設立日5月15日から6か月後の日は11月14日となりますが、前事業年度(設立1期目)の決算期末が月末であるため、5月15日から11月14日の前月末である10月31日までが特定期間の末日となります。
③設立事業年度が7か月以下である場合
その事業年度の前事業年度が7か月以下である場合、その期間は特定期間に該当しません。例えば、平成24年6月1日に設立され、同年12月31日に設立1期目の決算期末を迎えた法人の場合、設立2期目の消費税の納税義務の免除の判定上、前事業年度(設立1期目)は7か月以下となり、特定期間に該当しないことから、前事業年度の課税売上高による判定は不要となります。
(4)特定期間における課税売上高の計算
この特例は、特定期間中の課税売上高(又は給与等支払額)が実績として1,000万円超である場合に適用される制度です。このため特定期間が6か月であっても、その期間中の課税売上高を1年分に換算する等の調整計算は行いません。
(5)課税事業者選択届出書の提出
前述(1)~(4)の特定期間の課税売上高(又は給与等支払額)の判定により個人事業主又は法人が課税事業者となる場合は、「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を速やかに所轄税務署長に提出する必要があります。