税務相談

月刊不動産2009年9月号掲載

平成21年度改正・事業用資産の買換え特例延長

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

平成21 年度税制改正で延長された個人の譲渡所得に係る事業用資産の買換え特例について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.制度の概要

    (1) 事業用資産の買換え特例の概要

     個人が長期所有の不動産を譲渡した場合、譲渡益に対して20%の税率で所得税と住民税が課税されます。個人が事業内容の転換を図るため、所有する事業用資産を売却して別の事業用資産を購入したい場合であっても、納税のために売却代金のうち新しい資産の購入代金に充てる額が限られてしまいます。

     そこで、税制面で個人事業者の事業や所有資産の転換を後押しするため、一定の条件を満たした事業用資産の買換えに係る譲渡については、原則として譲渡益のうち80%部分の課税を繰り延べ、譲渡益の20%のみに課税する制度が設けられました。これが「事業用資産の買換え特例」です。

    (2) 16号買換えのポイント

     事業用資産の買換え特例は、対象者が個人の場合、全部で18種類あります(なお、ほぼ同じ制度が法人税にもあります)。このうち平成21年度税制改正で2年延長が盛り込まれ、平成23年12月31日までの譲渡について延長されたのが「長期所有の土地建物等から土地建物等への買換え(16号買換え)」です。

     「16号買換え」の適用があるのは、個人が国内にある譲渡年1月1日の所有期間が10年超の事業用不動産を譲渡して、譲渡年か、その前年中、あるいは譲渡年の翌年中に事業用不動産や機械装置等に買い換えた場合です。つまり所有期間10年超の事業用不動産から事業用不動産等への買換えであれば、国内のどこへでも買換えが可能であり、大変使い勝手がよい制度となっています。

    2.買換え特例の適用を受ける際のポイント

    (1) 適用対象となる「事業用」の判定

     事業用資産の買換え特例は、譲渡資産及び買換資産が事業の用に供されていることが要件となります。この場合の「事業用」に該当するかどうかの判定においては、次の項目がポイントになります。

     ① 「事業」は、相当の対価(減価償却費や固定資産税等の必要経費を控除して利益が生じる額)を得て継続的に行われることが前提となります。

     ② 空地や特別の施設を設けずに物品置場や駐車場として利用している土地は、事業用資産に該当しません。

     ③棚卸資産は、事業用資産には該当しません。

    (2) 適用対象外となる譲渡資産の譲渡

     収用等、贈与、交換、現物出資に伴い譲渡した資産や代物弁済のため譲渡した資産は、譲渡資産には該当しません。

    (3) 適用対象外となる買換資産の取得

     贈与又は交換による取得、所有権移転外リース取引により取得した資産や代物弁済により取得した資産については、買換資産には該当しません。

    (4) 事業供用要件

     買換資産については、取得した日から1年以内に事業に使うことが要件とされます。買換資産を取得してから1年以内に事業に使用しなくなった場合には、原則として買換え特例の適用が受けられません。

    (5) 譲渡年の翌年に買換資産を取得する場合

     譲渡年の翌年に買換資産を取得する見込みの場合は、譲渡年分の確定申告書に「買換資産の明細書」を添付し、翌年以降に取得する見込みである資産につき見積額で取得したとものとして譲渡所得の計算をします。実際に取得した資産の取得価額等が見積額と異なるときでも、特例の適用は認められます。

     買換資産を取得した場合には、取得日から4か月以内に登記簿謄本や取得を証明する書類等を税務署に提出します。さらに、「実際の取得価額が見積額より少ない」場合や「買換資産を取得しなかった」場合は、修正申告で差額税金を納付します。逆に、「実際の取得価額が見積額よりも大きい」場合は、更正の請求により税金の還付手続を行うことになります。

    (6) 選択適用

     事業用資産の買換え特例の特例を受けようとする資産については、重ねて他の特例(優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例や優良賃貸住宅等の割増償却など)の適用を受けることはできません。

page top
閉じる