税務相談

月刊不動産2011年5月号掲載

宅地の売買契約締結後に相続が発生した場合の相続税の取扱い

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

宅地の売買契約締結後、引渡し前に売主や買主に相続が発生した場合の相続税の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.売買契約締結後に相続が発生した場合

     (1)相続税計算における問題点

     宅地の売買契約締結後、引渡し前に売主や買主に相続が発生した場合には、相続人が取得する財産をどのように認識するのかによって、相続税の計算が異なります。

     例えば、宅地の売買契約締結後、宅地の引渡し前に売主が死亡した場合、相続人が取得する財産を宅地と考えるのか買主に対する売却代金請求権と考えるのかによって、課税財産の相続税評価額が異なり、ひいては相続人の納める相続税額も異なることになります。

    (2)実務上の取扱い

     相続税の財産評価について定めている財産評価基本通達は、宅地の売買契約締結後に売主や買主に相続が発生した場合の相続税の取扱いについて特に定めていません。

     実務上は、平成3年1月11日付国税庁資産税課情報第1号に基づき、被相続人である売主や買主に係る相続税の計算は、次の2.や3.のように取り扱われています。

    2.売主に相続が発生した場合の取扱い

    (1)相続により取得する財産の取扱い

     売主の相続人が相続により取得する財産は、宅地ではなく相続発生時の宅地の売買契約に基づく残代金請求権とし、買主から未収の売買代金をもって評価します。宅地を売主に引き渡す前に相続が発生し、所有権が売主に残っている場合であっても、相続税の計算上は、その所有権は売主が売買代金を確保するための機能にすぎないと考えます。

     例えば、被相続人が1億円で相続税評価額が8,000万円の宅地を売却する契約を結び、手付金1,000万円をもらった後に亡くなったとすると、相続税の課税対象とされるのは、宅地の相続税評価額8,000万円ではなく、手付金1,000万円と残代金請求権9,000万円となります。

    (2)被相続人に係る債務の取扱い

     被相続人である売主が負担することになっていた宅地売買の仲介手数料その他の経費で、相続発生時において未払のものについては、被相続人に係る債務として、相続税の計算上、債務控除の対象とされます。

    3.買主に相続が発生した場合の取扱い

    (1)原則的な取扱い

     買主の相続人が相続により取得した財産は、宅地売買契約に係る宅地の引渡請求権とし、その請求権の価額は契約に基づく宅地の売買金額とします。また、売買契約により支払うべき宅地の売買金額その他の経費のうち、被相続人から承継した債務は、相続発生時における残代金支払債務として、相続税の計算上、債務控除の対象とされます。

     例えば、被相続人が1億円で宅地を購入する契約を結び、手付金1,000万円を支払った後に亡くなった場合は、売買金額1億円を宅地の引渡請求権として相続税の課税財産に計上し、売主に支払うべき残代金9,000万円は債務として債務控除の金額に含めることになります。

    (2)特例的な取扱い

     ①宅地の売買契約日から相続発生日までの期間が通常の売買よりも長期間である等、上記(1)の売買金額が相続発生日の宅地の引渡請求権の価額として適当でない場合は、別途個別に評価した金額が引渡請求権の価額となります。

     ②上記(1)にかかわらず、その売買契約により購入する宅地を相続財産とする相続税の申告をすることも認められます。この場合の宅地の価額は、路線価等を基に財産評価基本通達により評価した金額となります。

    4.売主に相続が発生した場合の小規模宅地特例の取扱い

     個人が相続により被相続人の居住用や事業用に使用されていた宅地を取得した場合は、相続税の計算上、宅地の評価額のうち一定割合が減額されます。これを「小規模宅地等に係る相続税の特例(小規模宅地特例)」といいます。

     個人が居住用や事業用に使用していた宅地を第三者に売却する契約を結び、引渡し前に死亡した場合には、その宅地について、相続税の計算上、小規模宅地特例が適用できるかどうかという問題が生じます。

     結論からいえば、このような場合には小規模宅地特例は適用できません。なぜなら、売主の相続人が相続により取得する財産は、2(. 1)で解説したとおり、相続開始時の宅地の売却契約に基づく残代金請求権となります。したがって相続人が取得するのは、小規模宅地特例の対象となる宅地ではなく、残代金請求権という債権となりますから、小規模宅地特例の適用は受けられないという取扱いとされるのです。

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