法律相談
月刊不動産2002年7月号掲載
売買契約において瑕疵担保責任という文言がありますが、その内容を教えて下さい。
弁護士 草薙 一郎()
Q
売買契約において瑕疵担保責任という文言がありますが、その内容を教えて下さい。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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【A】
売買契約の対象物に隠れた欠陥があるときの売主の責任のことを指しています。簡単な例では売却した建物に白アリがいたというケースです。
この場合、売主としては完全な物を買主に移転すべき義務がありますので、売主側に帰責事由があって白アリがいたのであれば売主としての義務は履行されたとは言えません。
しかし、もし売主に帰責事由がないときに売主の責任はどうなるかについて定めたのが瑕疵担保責任ということになります。【Q】
その責任の内容は何でしょうか。【A】
この責任を買主が売主に求める前提として、買主は瑕疵の存在を知らないことが必要です。知っていれば買主として購入するか否か、購入するとしても代金を下げるなどの対応でその保護が図られるからです。
その責任ですが、その瑕疵の存在のため契約の目的を達成することができないときは買主は契約の解除ができ、あわせて損害賠償を求めることができます。
それ以外のときは損害賠償のみを求めることができます。
しかし、これらの権利を行使するためには、瑕疵の存在を知ってから1年以内であることが必要です。【Q】
瑕疵というと白アリのような物理的な欠陥のみを指すのでしょうか。【A】
そうではありません。
裁判所の見解によると「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであり、目的物が通常有すべき設備を有しない等の物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥のある場合も含む」としたり(東京地裁平成7年5月31日判決)、「目的物の通常の用途に照らしその使用の際に心理的に十分な使用を妨げられる欠陥、すなわち心理的欠陥も含む」(東京地裁平成9年7月7日判決)としています。
つまり、物理的なものだけでなく、心理的なものも瑕疵であるとして、瑕疵担保責任の範囲が拡大しているわけです。【Q】
どんなケースがありますか。【A】
売買の目的物内での自殺あるいは自殺行為が判例として紹介されています。
マンションの売買のケースで、購入の約6年位前にそのマンションの持ち主の妻が自殺したケースで、買主による契約の解除が認められています。
また、売買の約7年前に建物の物置小屋で自殺行為を図り、病院で死亡していたケースでも契約の解除を認めています。
これらは、どちらも売買の目的を達成できない瑕疵としたわけです。
あるいは、近くに暴力団事務所があったり、同じマンションに暴力団員がいて組員の出入りがあるなどのケースでは、売買代金の何割かを損害として認定し、買主による損害賠償を認めたケースもあります。
さらに、地下に基礎などの埋設物があり、土地の購入者によってマンション建設ができないようなときに埋設基礎の撤去費用の支払いを命じたケースもあります。
このように、瑕疵担保責任の範囲は物理的なもの以外に拡大されており、今後、そのトラブルの多発が予想されます。売主、買主どちらの仲介に入るとしても売買目的物の状況を十分確認しておくこと、あわせて周辺状況を十分に説明しておくことが、トラブル予防として必要でしょう。