法律相談

月刊不動産2014年11月号掲載

土地売買における湧水の瑕疵

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

動物病院を建てる目的で土地を購入しましたが、引渡後に地盤の調査をしたところ、湧水のために、建物を建てるには地盤の補強が必要であることが分かりました。地盤補強のための工事費用などについて、売主に対して、損害賠償の請求ができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

    契約の前に予期していなかった地盤補強工事費用などについては、売主に対して、瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求をすることができます。

    2. 瑕疵担保責任

    民法には、売買契約の目的物に瑕疵があり、買主がその瑕疵を知らないときには、売主は買主の損害を賠償しなければならないと定められています(民法570条、566条1項)。瑕疵のために契約の目的を達することができなければ、契約の解除をすることもできます。この責任が瑕疵担保責任です。

    瑕疵とは欠陥という意味です。欠陥のある物を買った場合であっても売買代金は支払わなくてはいけません。そのため、売主と買主の衡平を図るべく欠陥による損害を売主負担とし、また欠陥があれば契約をしなかったであろうケースでは、売買契約の解除ができるものとしているわけです。この責任は売主に過失があるかどうかを問わない無過失責任です。

    瑕疵とは、売買の目的物について、その物が通常有するべき性質、性能を備えていないことをいいます。建物を建てるために土地を購入した際、湧水によって、地盤を補強しなければ建物を建築できない状況だったのであれば、売買の対象たる土地が建物用地として通常有すべき品質を備えていませんから、瑕疵があるということになります。

    3. 裁判例

    湧水が土地の売買における瑕疵とされたケースが、名古屋地裁平成25年4月26日判決です。

    買主は、動物病院の建築を目的として、売主の宅建業者から土地を購入しました。しかし、引渡後に建物を建築しようとしたところ、土地の浅い部分に地下水脈があって、地下水からの湧水に対する対策を講じるための工事を行うことが必要になったため、買主が、売主に対して、瑕疵担保責任として、地盤補強のための工事費用などの損害賠償請求をした事案です。

    裁判所は、次のとおり述べて、買主の請求を認めました。

    「本件土地の地下約0.5mの位置に地下水脈があり、本件土地において地下水が湧出していることが認められるところ、本件土地では、平成21年3月には、本件土地の表土を50ないし60cm鋤(す)いただけで地下水が湧出して本件土地の約3分の1に水が貯留する通常とはいえない状態が生じている。また、このように地下水が浅い位置にある場合、建物の基礎として直接基礎を採用できず、地盤表層改良をしても効果が期待できない上、一般的な地盤改良方法である柱状改良工法を用いても、流し込んだセメントが湧水層に流出してしまうため地盤改良の効果がないから、鋼管杭による杭地業工事でもって地盤改良をする必要がある。
    更に、鋼管杭は、先端部分の支持力に加えて杭と地盤の摩擦力で建物の重さを支えるので、その途中の地盤が軟弱であれば水平方向の力は支えられないし、本件土地のように地下水位が浅い位置にある場合、一般的な宅地以上に地表の雨水を速やかに排水する必要があるし、地盤沈下を避ける必要もあるから、本件土地には透水管を設置する必要がある。

    名古屋市における平均地下水位は、浅いところでもマイナス3m程度であるし、約100件の戸建て住宅の建築設計に関わったE建築士の経験では、1.5mというものが最も浅い地下水位であり、地下水位が0.5mないし1m程度であったことはなく、E建築士が透水管を使用した土地も、木曽川沿いや田の用水沿い、造成時に沈砂池であった場所など比較的地下水位が浅いことが想定される土地であったと認められる。これによれば、本件土地は、周囲に川や田等がなく、地下水位が浅いことが想定されていない土地であるにもかかわらず、地下約0.5mの位置に地下水脈があるという特異な土地であるといえる。
    そして、その結果、宅地として本件土地を利用するためには透水管の設置等が必要となるところ、透水管の設置等が必要な宅地は多くないことに照らせば、本件土地には透水管の設置等が必要な瑕疵があるというべきである」

    4. まとめ

    土地売買の瑕疵としては、土壌汚染や地中埋設物が問題になり得ることは広く周知されていますが、湧水についても、問題になることがあります。地盤の問題は、建物建築の費用に直接的に影響を及ぼすとともに、地震に対する地盤の強さが社会的に強い関心を集めている現状で、土地の価値そのものに関係してくることも、あり得ます。土地の売買に関与する際には、土壌汚染や地中埋設物の問題ばかりではなく、湧水を含めた地盤の問題についても、十分に確認しておく必要があります。

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