税務相談
月刊不動産2015年3月号掲載
土地による相続税の物納の留意点
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
土地による相続税の物納を行う際の留意点について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.物納が許可される相続税の額
(1)物納の概要
相続税の物納は、納税義務者が延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、税務署長の許可を受けることにより、その納付を困難とする金額を限度として認められる特例です[相続税法(相法)41条1項]。物納の許可を申請しようとする者は、原則として、物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出することが必要です(相法42条)。
(2)物納が許可される相続税の額の計算
物納により納付することが許可される相続税の額(物納許可限度額)は、納付すべき相続税額から金銭納付が可能な額や延納により納付が可能な額を控除して計算されます。物納許可限度額は、次の算式の通りに算出されます[相続税法施行令(相令)17条、相続税基本通達(相基通)41-1、同逐条解説]。
(算式)物納許可限度額=相続税額-(①+②×③+④)
上記算式中の①は、納税義務者が相続税の納期限において有する現金・預貯金・換価容易財産(ゴルフ会員権や生命保険など)の合計額をいいます。
①には、相続により取得した現金・預貯金・換価容易財産のほか、納税義務者固有の財産である現金・預貯金・換価容易財産が含まれます。これは、納期限に相続税の納付が困難かどうかの判断に当たり、相続財産のほか納税義務者固有の資産の状況も加味して、物納許可限度額の計算上控除すべき相続税の金銭納付に充てることが可能な額を計算するためです(相基通38-2、同逐条解説)。
②は、納税義務者の年間収入から年間生活費などを差し引いた額をいいます。これは、前年の収入を基に、1年間の経常的な収入から生活費を差し引き、その年において相続税の金銭納付に充てることが可能な額を推計するためです。
③は、物納申請額を延納申請額であるとみなした場合に延納が認められる最長年数をいいます。②で計算した額に③の年数を乗じて、物納許可限度額の計算上控除すべき、延納により相続税の納付が可能な額を計算します。
④は、納税義務者の臨時収入から臨時支出を差し引いた額をいいます。おおむね1年以内に発生が見込まれる退職金の受給など臨時的な収入から事業用資産の購入などの臨時的な支出を差し引き、物納許可限度額の計算上控除される相続税の金銭納付に充てることが可能な額を計算します。
物納許可限度額の計算上は、物納を申請する者の固有の預貯金などの額や年収なども考慮されます。
2.物納に充てることができる財産
(1)物納財産の種類
物納に充てることができる財産(物納財産)とは、原則、納税義務者の相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相法21条の9の相続時精算課税の規定の適用を受ける財産を除きます)のうち、日本国内に所在するものです。物納財産が複数ある場合は、次に掲げる順位に応じ、その掲げる順に物納に充てられます(相法41条2項・5項)。
①第一順位
国債、地方債、不動産、船舶②第二順位
社債、株式、証券投資信託または貸付信託の受益証券③第三順位
動産なお、担保権が設定されている不動産など一定の財産については、管理処分に不適格な財産として物納財産から除外されます(相法41条2項、相令18条)。
(2)物納劣後財産
(1)の物納財産のうち、一定の財産を「物納劣後財産」といいます。例えば、建築基準法に規定する道路に2メートル以上接していない土地や、市街化区域以外の区域にあり宅地として造成することができない土地などが、物納劣後財産に該当します。これらの財産については換金が難しいことから、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができます(相法41条4項、相令19条)。例えば、物納を申請する者が相続した財産に、貸駐車場として使用する宅地など物納劣後財産以外の「他に物納に充てるべき適当な財産がある」場合は、これら財産を差し置いて、物納劣後財産に該当する土地から先に物納に充てることはできません。