法律相談
月刊不動産2020年8月号掲載
原野商法における宅地建物取引士の名義貸し
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
私は2筆の土地を合計420万円で宅建業者である売主から購入しましたが、いずれの土地もまったく価値がない土地でした。売主から交付された重要事項説明書には、宅地建物取引士の記名押印があります。売主の宅建業者が解散しているため、宅地建物取引士個人に損害賠償を求めましたが、「自分は名義を貸しただけだ」と言って請求に応じません。宅地建物取引士に対して損害賠償を請求できるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 宅地建物取引士個人に損害賠償請求できる
宅地建物取引士個人に対して、損害賠償を請求することができます。宅地建物取引士が名義を貸していただけだとしても、名義貸しを行う行為は違法行為であり、また、宅地建物取引士による重要事項説明の書面があったために無価値な土地を購入したと考えられるからです。
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2. 宅地建物取引士の法的な立場
(1)業務処理の原則と信用失墜行為の禁止
さて、宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、購入者等の利益の保護および円滑な宅地または建物の流通に資するように、公正かつ誠実に事務を行う義務があります(宅地建物取引業法15条1項。以下、条文の数字は宅地建物取引業法を示す)。さらに、その信用または品位を害するような行為を行ってはなりません(15条の2)。
(2)名義貸しの禁止
宅地建物取引士は、自らの名前によって関与する不動産取引については、責任をもって内容を理解してこれを正しく当事者に伝えるのが職責です。そのような観点から、名義貸しを行う行為は、違法行為として禁止されます。「他人に自己の名義の使用を許し、他人がその名義を使用して宅地建物取引士である旨の表示をしたとき」には、都道府県知事によって指示の処分がなされ(68条1項2号)、指示に従わない場合には、1年以内の期間を定めて、宅地建物取引士の事務を行うことが禁じられ(68条4項)、さらに、情状が特に重いときまたは事務の禁止の処分に違反したときには、登録が消除されることになります(68条の2第1項4号)。 -
3. 東京地判平成30.7.13
東京地判平成3 0 . 7 . 1 3( 2 0 1 8WLJPCA07136008)は、宅地建物取引士の名義貸しの責任が問われたケースです。買主Xは、宅地建物取引士Yの記名押印のある重要事項説明の交付を受けたうえで、売主から2筆の土地を購入し合計420万円を支払っていましたが、この売買はいわゆる原野商法であり、まったく価値のない土地を売りつけられていました。
判決では、まず、売主Aの宅地建物取引業の免許取得と事業の事情について、「宅地建物取引士Yは、Aが宅地建物取引業の免許を得るため、本来は専任の宅地建物取引士とはなり得ないことを認識しつつ、自己を専任の宅地建物取引士として本件免許申請を行うことを承諾し、必要書類をAに交付したもので、本件免許は、Yの協力があって初めて取得が可能であったと認められる。そして、Aは複数の土地の売買を行ったものと認められるが、このような土地売買は宅地建物取引業に当たるものであり、本件免許があることにより可能であった」と述べたうえで、「Yが本件免許申請に必要な書類をAに交付した後、会社の設立状況や上記取引の進捗状況については何ら具体的ないし明確な連絡はなく、・・・Aに問い合わせてもはぐらかすような対応がなされていたというのである。このような経緯を考慮すれば、Yは、自らが訴外会社の唯一の専任の宅地建物取引士として登録されていることを知りながら、その営業内容ないし事業活動について確認することなく、通常であれば、推移の報告をするはずのAがその報告をしないのみならず、これを回避するような態度を示していたことにも不審の念を抱かず、漫然と毎月5万円の送金を受領しつつ、事態を放置していたものというべきである」として、Yが適切な対応をしていれば、Xは原野商法の被害に遭うことはなかったとして、Yの不法行為責任を認めています。 -
4. まとめ