法律・税務・賃貸Q&A

処分禁止の仮処分

弁護士 渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所

質問

ある土地を所有者Sから購入したいという仲介の依頼を受け、土地の登記を調べたところ、登記上Sの所有にはなっているものの、甲区に「処分禁止の仮処分、債権者X」との記載がありました。このような登記が残されたままで、売買の仲介業務を取り進めてもいいでしょうか。

月刊不動産2012年10月号掲載
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回答


1 回答

 登記上に、処分禁止の仮処分の登記の記載があるというのは、裁判所から、土地の所有名義人Sに対して、一時的に土地の売却を禁止する命令が出ていることを意味します。これは、一時的な仮のものであって、Sに売却の権限がなくなるではありませんが、しかし、この場合には、別途Sの権利の有無について本裁判が行われていることが推測されるところ、処分禁止の仮処分の登記がなされていると、本裁判でSの権利が否定された場合、所有名義人から権利を取得しても、仮処分命令の債権者に対して、対抗することができなくなります(民事保全法58条1項)。
したがって、土地の登記に「処分禁止の仮処分」との記載がなされているときは、仲介業務を進めるべきではありません。仮に、仲介業務を取り進める必要がある場合には、必ず弁護士に相談してください。

2 処分禁止の仮処分

 処分禁止の仮処分の登記がなされているのは、たとえば、次のようなケースです。

①登記上は、XがSに土地を売却し、Sが所有者となっている。

②ところが、XからSに対する所有権移転登記は、AがXに無断で手続をしたものであったとして、Xが、Sに対し、登記を自分名義に戻すよう訴え提起をしている。

③しかし、XからSに対する訴訟が終了するまでの間に、Sが第三者に土地を売却してしまうと、Xの権利が保護されなくなってしまう可能性がある。

④そこで、Xの権利を保護するため、Xが、処分禁止の仮処分決定を求め、裁判所の決定によって、Sから第三者に対する土地を売却することが、暫定的に禁止されている。

3 民事保全

 さて私人間の争いは、訴訟によって終局的な解決が図られます。そして訴訟は、終局的な決着を図るものであるため、当事者双方の十分な主張立証を尽くすことができるような仕組となっており、そのために、時間が必要です。

 しかし一方で、判決をもらえば勝訴できるとしても、時間をかけて訴訟の終了をまっていたのでは、財産を隠されたり、余計に事態が紛糾し、取り返しのつかない事態が生ずることもあり得ることです。

 そこで、訴訟による終局的な解決をまたず、暫定的に、裁判所が争いの解決に関する方法を決定する手続が認められています。この手続が民事保全であり、民事保全法という法律が定められています。

4 仲介業者の登記調査義務

 ところで、ご質問のように仮処分の登記がなされている場合のほか、登記が売主ではない者の名義になっていたり、仮登記や抵当権などの制限物件が付着しているような場合には、売買によって買主が所有権を取得できず、あるいは売買契約の後に買主が所有権を失ったり、利用が制限されてしまうおそれがあります。

 そこで、仲介業者が不動産売買の仲介を行うにあたっては、登記の調査は重要な基本的義務ということになります。これを怠ると、重要事項説明義務違反に直結しますし(宅建業法35条1項1号)、調査義務違反によって依頼者に損害を生じさせれば、損害賠償責任を負うことにもなります。

 また、登記の調査時期については、重要事項説明を行う時を基準として、可能な限り時間的に近接した時点における登記事項を調査することが、とても大事です。
1か月前の登記事項は確認したけれども、その後の権利変動を確認せずに店舗の賃貸借の仲介をしたために、借主が損害を被ったというケースでは、「不動産の権利関係が1か月の間に変動することはしばしばあり、しかも容易に登記簿で、権利関係を調査することができるにもかかわらず、業者は、借主に対する説明書を作成する際、1か月前に受領した登記簿謄本を過信し、権利関係の再調査をせず、そのため、店舗の真の所有者が1か月前に記載された権利者とは別人であることに気付かず、物件説明書を作成し、これを信頼した借主に賃貸借契約の仲介をしたものということができる。
したがって、宅建業者の仲介行為には、過失(義務違反)があるといえるから、借主に対し、これによって被った損害を賠償する責任を負う」とされています(東京地裁昭和59年2月24日判決)。

 現在ではインターネットを使った登記の調査も可能になっています。登記調査の重要性を再確認しておいてください。 

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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