賃貸管理ビジネス

月刊不動産2022年3月号掲載

共用部分改善アイデアで長期間入居を叶える

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 繁忙期も終わり、一昨年のコロナ禍の影響で減少していた入居希望者もようやく戻ってきました。ただ一方で、退去する人も多く、フタを開けてみたら大幅な入居率アップにまでは到ることができませんでした。今後、退去しても入居が決まらないまま閑散期とならないか不安です。何かよいアドバイスをいただくことはできますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     入居者もお金をかけて引っ越しをしている以上、あえてさらに引っ越したいと思う人はあまりいません。なんとか入居を留まらせるには、物件の問題点を改善して「快適な住環境を提供し続ける」必要があります。退去の抑止は「究極の空室対策」といえます。今一度、極力、退去を出さない方法を考えてみましょう。

  •  春の引っ越しシーズンもようやく一段落。これから迎える閑散期にはライバル物件に負けないような積極的な空室対策も必要となりますが、一方で、この春に無事「満室」を達成した方も気を抜くことはできません。なぜなら、成約の後には入居者の保持、つまり「入居者にどれだけ長く住んでもらうか」という新しい戦いが始まっているからです。

  • 解約抑止は「究極の空室対策」

     昨今、賃貸業界では「テナント・リテンション(入居者の保持)」という概念を意識することが増えました。一昔前と違い、若年層の減少、外国人入居者の減少で、賃貸住宅への需要(入居ニーズ)が大幅に減っている中、いかに既存入居者を物件に留まらせるのか、が安定経営のカギになるからです。今の入居者にできるだけ長く住んでもらい、毎月きちんと家賃を払ってもらうことが、オーナーにとっては重要な経営戦略なのです。
     礼金を2カ月取得することが当然だったような時代とは異なり、近年は敷礼ゼロやフリーレントでの募集も珍しくない「厳しい時代」です。さらには、ここに原状回復費や、地域によっては高額な広告宣伝費(AD)も加わるのですから、下手に解約者を出すより、どうにかして今の入居者を保持するほうが得策なのです。「テナント・リテンション」による入居率維持が、これからの賃貸経営の成功を左右するのです。

  • 入居者の暮らしの質を共用部分で高める

     テナント・リテンションの基本は「入居者の満足度を高める」ことにあります。方法はさまざまですが、たとえば建物の共用部分に工夫を凝らすことも入居満足度アップにつながります。

    具体策1 : 共用部分の清掃・装飾
     毎日の暮らしの場でもある以上、エントランスや共用廊下が汚れていたり殺風景であったりではマイナスです。どのエリアで調査をしても、入居者が望むことの第一位に「清潔さ」を求めていることがわかりました。いつも見慣れていると「汚れ」も日常の風景になりがちですが、そのままでは新規入居者は成約には至りませんし、既存入居者の満足度は下がる一方です。空室で困っている物件は、今一度、「清潔さ」に意識を配り現地確認をしてみましょう。
     定期的な清掃はもちろん、アートやグリーンを飾ることでワンランク上の空間を演出し、自分はこんなに素敵な物件に住んでいるんだ、という入居者の自尊心をくすぐるのも、リテンションの方法です。
     昨今は定期的に生花を届けてくれる定額制サービスのほか、本物そっくりの造花や有名絵画の複製画、アートなどをレンタルできるサービスも登場しています。これらを活用すれば季節ごとに装飾を変えられるため、手軽に飽きのこない空間づくりが叶います。

    具体策2 : 共用部分の利便性向上
     居室だけでなく共用部分まで同額の家賃で使えるとしたら、入居者としては嬉しいものです。共用ラウンジに無料Wi-Fiを設置してワークスペースとしたり、敷地内にドッグランを整備して入居者に開放したりといった施策は、増加しているテレワーカーやペット飼育者の満足度に大きく貢献しているようです。
     また、とある物件では共用部分に冷蔵庫と商品棚を設置して、入居者がいつでもドリンクやお菓子、カップラーメン等を購入できる「ミニコンビニ」をつくったとのことです。最近ではオフィス内に従業員が利用できる「置き菓子」や「置きフード」を利用されている事例をよく目にします。それであれば、コンビニよりも近くて便利な方法を試してみるのも手です。海外では、自動販売機をアプリで利用するなどの事例も目にしたことがあります。入居者の暮らしの質に着目して入居満足度を高めた面白い事例といえるでしょう。


     一度の施策で全入居者に「価値」を感じてもらえる共用部分への投資は、アイデアによっては専有部分単体への投資よりも高い費用対効果を発揮します。また、入居満足度向上への姿勢は、部屋探しのお客様の第一印象改善にもつながり、空室期間の短縮も期待できます。
     メリットの多い共用部分改善、テナント・リテンションの考えのもとに、ぜひ、オーナー提案をしてみてください。

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