税務相談
月刊不動産2011年1月号掲載
入院等により自宅を空き家にした場合の小規模宅地等に係る相続税の特例
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
被相続人が入院や老人ホームへの入所により自宅を空き家にしていた場合の小規模宅地等に係る相続税の特例の適用について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.小規模宅地等に係る相続税の特例
(1)特例の概要
個人が相続や遺贈によって取得した財産の中に、亡くなった人(被相続人)の居住や事業に使用されていた宅地等がある場合には、相続税の課税価格の計算上、宅地等の評価額のうち一定割合を減額する特例があります。これを「小規模宅地等に係る相続税の特例」といいます。
相続開始直前において、被相続人の居住用に使用されていた宅地等で次の①又は②の要件を満たすものは、相続税の計算上、地積240㎡まで評価額の80%が減税となります。
①被相続人の配偶者が取得した宅地等
②その宅地等を取得した被相続人の親族が、原則、相続開始直前にその宅地上の被相続人の居住用家屋に居住していた者であって、相続税の申告期限(相続開始後10か月経過日)まで引き続きその宅地等を有し、かつ、その家屋に居住していること。
(2)居住用に使用されていたかどうかの判定
小規模宅地等の特例の対象となる「被相続人の居住用に使用されていた宅地等」の判定は、被相続人が、その宅地等の上に存する建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより行います。具体的には、被相続人の日常生活の状況、その建物への入居目的。その建物の構造や設備の状況、生活の拠点となる他の建物の有無その他の事実を総合的に考えて、居住用に使用されていたかどうかを判定します。
2.入院で自宅が空き家であった場合
被相続人が相続開始前に入院し、退院せずに死亡した場合において、入院前まで居住していた建物が空き家であったときは、その建物の敷地について居住用の小規模宅地等に係る相続税の特例の適用を受けられるのでしょうか。
この場合、医療を提供し病人を収容するという病院の機能等を考えれば、被相続人が入院前まで居住していた建物で起居しないことは、一時的なものといえます。その建物が入院後に他の用途に供されたような事実がない限り、被相続人の生活の拠点は、なお、その自宅であった建物にあるとものと考えるべきです。
したがって、その建物の敷地は空き家となっていた期間にかかわらず、相続開始直前において被相続人の居住用に使用されていた宅地等に該当し、小規模宅地等に係る相続税の特例の対象となります。
3.老人ホームへの入所で自宅が空き家であった場合
被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所し、一度も退所せず死亡した場合において、被相続人が入所前まで居住していた建物が相続開始直前まで空き家であったときは、その建物の敷地について居住用の小規模宅地特例の適用を受けられるのでしょうか。
被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所したような場合は、一般的には被相続人の生活の拠点も移転したものと考えられます。しかし、被相続人の身体上又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため、自宅での生活を望んでいるものの、居住していた建物を離れて老人ホームに入所している場合もありえます。このような場合において、被相続人がいつも居住できるよう、自宅の維持管理がなされていたときは、病気治療のため病院に入院した場合と同じ状況にあると考えられます。
そこで、被相続人が老人ホームに入所したため、相続開始の直前においても、それまで居住していた建物を離れていた場合において、次の(1)~(4)の状況が客観的に認められるときには、被相続人が居住していた建物の敷地は、相続開始の直前において被相続人の居住用として使用されていた宅地等に該当するものとします。
(1)被相続人の身体又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人ホームへ入所することとなったものと認められること。
この場合、特別養護老人ホームの入所者については、その施設の性格から判断して介護を受ける必要がある者に該当します。特別養護老人ホーム以外の老人ホームの入所者については、入所時の状況に基づき判断します。
(2)被相続人がいつでも生活できるように、その建物の維持管理が行われていたこと。
(3)入所後その建物を、新たに他の者の居住用その他の用に供していた事実がないこと。
(4)その老人ホームは、被相続人が入所するために被相続人又はその親族によって所有権が取得され、あるいは終身利用権が取得されたものではないこと。