法律相談
月刊不動産2009年6月号掲載
債権法改正の基本方針
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
民法(債権法)改正について、基本方針が出されたと聞きました。どのようなものなのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.近い将来に、民法が大幅に改正される見通しです。平成21年4月、民法(債権法)改正検討委員会から、「債権法改正の基本方針」が発表されました。民法改正の議論の出発点となる重要な資料です。
2.民法は私人間の法律関係を規律する基本法であり、条文として定められたものが民法典です。
現行民法典は、明治29年に成立。同31年に施行され、その後第4編(親族)、第5編(相続)は戦後間もなく全面的な改正が行われましたが、第1編(総則)、第2編(物権)、第3編(債権)については,形式面では平成16年に全文を片仮名文語体表記から平仮名口語体に改める改正が行われたものの、実質面では部分的な改正が何度か行われるにとどまり、全面的な改正は施されないまま、施行後既に100年以上が経過しています。
しかし、当然、現在の社会状況は、民法典施行当時とは全く異なっており、特に民法が想定していない新しい類型の契約や取引がかなり増加しています。そのため、既に現行の民法典のみでは、私人間の法律関係を適切に規律することは不可能となり、借地借家法、消費者契約法、労働基準法など、多くの特別法によって実質的な修正が施されていますし、特別法のない領域については判例により、民法典の明文にはない不文の法規範が数多く構築されています。
このような状況の中、平成18年10月、有力な民法学者を中心として、民法(債権法)改正検討委員会が設立され、約2年半にわたり、債権法の分野についての民法改正が検討されてきましたが、今般、検討の成果として、「債権法改正の基本方針」が取りまとめられました。
3.不動産取引との関連においても、「債権法改正の基本方針」には、たとえば、次のとおり、極めて重要な内容が含まれています。
『【3.1.1.05】(瑕疵の定義)物の給付を目的とする契約において、物の瑕疵とは、その物が備えるべき性能、品質、数量を備えていない等、当事者の合意、契約の趣旨および性質(有償、無償等)に照らして、給付された物が契約に適合しないことをいう。
【3.1.1.10】(交渉当事者の情報提供義務・説明義務)
(1) 当事者は、契約の交渉に際して、当該契約に関する事項であって、契約を締結するか否かに関し相手方の判断に影響を及ぼすべきものにつき、契約の性質、各当事者の地位、当該交渉における行動、交渉の過程でなされた当事者間の取り決めの存在およびその内容等に照らして、信義誠実の原則に従って情報を提供し、説明をしなければならない。(2) (1) の義務に違反した者は、相手方がその契約を締結しなければ被らなかったであろう損害を賠償する責任を負う。
【3.1.1.11】(交渉補助者等の行為と交渉当事者の損害賠償責任)当事者は、契約交渉のために使用した被用者その他の補助者、契約交渉を共同して行った者、契約締結についての媒介を委託された者、契約締結についての代理権を有する者など、自らが契約交渉または締結に関与させた者が【3.1.1.10】に掲げられた行為をしたとき、【3.1.1.10】の規定に従い、相手方に対して、損害賠償の責任を負う。
【3.2.1.16】(目的物の瑕疵に対する買主の救済手段)
(1) 買主に給付された目的物に瑕疵があった場合、買主には以下の救済手段が認められる。ア 瑕疵のない物の履行請求(代物請求、修補請求等による追完請求)、イ 代金減額請求、ウ 契約解除、エ 損害賠償請求、(2) 瑕疵の存否に関する判断については、危険が移転する時期を基準とする。』
4.現在の民法全体の条文数は1044条ですが、欧州諸国では、2,000条から4,000条超となっており、諸外国と比べると、条文数は多くありませんでした。改正後は、わが国でも、現在の条文数の2倍を超えるものになるとイメージされています。
不動産取引において、民法が大変に重要であることは、論を俟まちません。今般の改正は、債権法のすべての分野にわたる抜本的なものであり、フォローは容易ではありませんが、宅建業者にとって、十分な理解をしておくことは、絶対に必要なことです。