賃貸相談
月刊不動産2011年6月号掲載
借家人の敷地使用権限の有無
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
アパートを所有していますが、ある入居者から住人の一人がアパートの敷地内に自家用車を駐車させていると連絡がありました。借家人に敷地を駐車場として使用することを禁止できますか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.アパート賃貸借の法律関係
アパートを借りるということは、アパートという建物の賃貸借契約を締結するということです。アパートを賃借した場合には、当然ながら賃借した貸室だけでなく、前面の道路からアパートの敷地内を通行して出入りすることになります。それでは、アパートを賃借した借家人は、当然にその敷地をすべて使用できるのかといえば、決してそうではありません。
なぜなら、アパートの入居者が賃貸借契約を締結した対象は建物であって、土地を賃貸する契約は締結していないからです。
欧米では、建物は土地に符合するものとされ、建物は土地の一部であるとされています。地主が土地・建物を賃貸するわけです。ローマ法以来の「地上物は土地に属す」という伝統的な考え方によっているわけです。しかし、我が国では、土地と建物は別個の不動産であるとされています。したがって、我が国では、土地賃貸借契約と建物賃貸借契約は厳然と区別されています。建物を賃借した者は、当然に土地を賃借しているとは考えられていないのです。
2.賃借人による建物敷地の利用
しかし、建物しか賃借していないからといって、借家人は、建物以外に土地は一切使うことができないものとすると、借家人は外部から建物に出入りすることもできなくなってしまいます。
そこで、借家人は、賃貸借契約を締結している建物の敷地を、一定の範囲で使用できるものと考えられています。
問題は、借家人が使用できる敷地の範囲です。借家人が、賃貸借契約を締結している建物の敷地の前面道路から、敷地内の建物まで達するための通行に必要な部分を使用できることは当然ですが、借家人はそれ以外の敷地は使用できないのでしょうか?
一般的には、借家人は建物を賃借しているだけで、敷地については賃貸借の目的とはされていないのですが、建物は土地を離れて存在することができないものですから、建物を利用する以上は、建物の利用上、必要な範囲で敷地を事実上使用することが認められていると考えられています。つまり、借家人の敷地の使用は、土地に対する賃借権や地上権のように、使用収益権能として認められたものというよりは、事実上、使用することができるにすぎないものと理解することになります。
上記のように、借家人の敷地の使用は、「建物の利用上、必要な範囲で敷地を事実上使用することが認められている」ものと考えると、借家人がどの範囲の敷地を利用できるかは、建物賃貸借の目的や態様に照らし、通常の使用であるといえるか否かにより異なることになります。
例えば、一軒家を貸家として賃貸している場合には、借家人は、その一軒家の敷地として隣地と塀などで敷地が区分されているような場合には、原則として、その区分された敷地は庭として利用することが認められていると考えられます。一軒家を借家人が家族で暮らす自宅として借りているという場合には、地域の地域性ということはあるとしても、借人の自家用車を駐車させることもあり得ると考えられます。しかし、それは、一軒家についての建物賃貸借契約であって、自家用車を駐車させることが建物の用途に応じた賃貸建物の通常の使用といえるか否という観点から、それが肯定される場合があるということにすぎません。
3.アパートの借家人の駐車場としての使用
アパートの借家人が、アパートの敷地に自家用車を駐車させることの可否については、そのアパートの賃貸借契約で予定された建物及び敷地の使用方法がいかなるものであったか、アパートの敷地の形状その他の事情等からして、建物の用途に応じた敷地の通常の使用方法とは何かという観点から決定されることになるものと思われます。
アパートの敷地が、住民の自家用車を駐車させるだけのスペースがなく、他の居住者もいる状態で、一人の居住者が駐車場として使用することは、原則として、建物使用に伴う通常の利用方法であるとは、必ずしもいえないものと考えられます。