法律・税務・賃貸Q&A

個人情報の意味

弁護士 渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所

質問

5カ月前に亡くなった私の母は、Y銀行に口座を開設し、銀行印を押捺した印鑑届書を提出していました。この印鑑届書について、私の個人情報であるとして、個人情報保護法に基づいて、Y銀行に開示を求めることができるでしょうか。

月刊不動産2019年12月号掲載
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回答

1. 開示を求められない

 印鑑届書の情報は、あなたの個人情報には当たりませんので、個人情報保護法に基づく開示を当然に求めることはできません。

2. 個人情報保護法による個人情報の意味

 現代社会では、大量の個人情報が電子化され、コンピュータやネットワークによって人々の利便性を高め、豊かな生活を支える役割を果たしています。しかし、電子化された個人情報は、それがいったん本人の手から離れると、拡散され、個人のプライバシーや平穏な生活への脅威となります。このような状況を受けて、誰もが安心して高度情報通信社会の便益を享受するための制度的基盤として、2003(平成15)年に個人情報保護法が制定されました。2015(平成27)年には社会経済の情報化のさらなる発展に応じて法改正がなされています[2017(平成29)年施行]。
 もっとも、個人情報保護法は、その定めが抽象的で、どの情報が個人情報に当たるのか、また、個人情報保護法が求めるのはいかなる行為なのかの判断が容易ではありません。今般、死亡した母親の印鑑届書の個人情報への該当性についての最高裁の判断が公表されました。以下に紹介します。

3. 最判平成31.3.18金商1569号9頁

(1)事案の概要
①Xの母Aは、平成15年8月29日、Y銀行I支店に普通預金口座(本件預金口座)を開設し、その際、Y銀行に対し、印鑑届書(本件印鑑届書)を提出した。本件印鑑届書には、AがY銀行との銀行取引において使用する銀行印の印影があり、Aの住所、氏名、生年月日等が記載されている。
②Aは、平成16年1月28日に死亡した。その法定相続人は、いずれもAの子であるXほか3名であったが、相続人間で相続財産の分配に関して争いが生じたことから、Xは、Y銀行に対して、Aが提出した本件印鑑届書の情報は個人情報保護法2条7項に規定する保有個人データに該当すると主張して、同法28条1項に基づき、本件印鑑届書の写しの交付を求めたが、Y銀行がこれを拒んだために、Xは、Y銀行には開示義務があるとして、訴えを提起した。
③原審の広島高裁岡山支部は、「ある相続財産についての情報であって被相続人に関するものとしてその生前に個人情報保護法2条1項にいう『個人に関する情報』であったものは、その相続財産が被相続人の死亡により相続人や受遺者(相続人等)に移転することに伴い、相続人等に帰属することになるから、相続人等に関するものとして上記『個人に関する情報』に当たる」として、Xの請求を認めた。
④これに対し、上告審である最高裁は、原審の判断を覆し、被相続人の本件印鑑届書の情報は、個人に関する情報」に当たらないと判断した。

(2) 最高裁の判断
 「相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう『個人に関する情報』に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人等に関するものとして上記『個人に関する情報』に当たるということはできない。本件印鑑届書にある銀行印の印影は、AがY銀行との銀行取引において使用するものとして届け出られたものであって、XがAの相続人等として本件預金口座に係る預金契約上の地位を取得したからといって、上記印影は、XとY銀行との銀行取引において使用されることとなるものではない。また、本件印鑑届書にあるその余の記載も、XとY銀行との銀行取引に関するものとはいえない。その他、本件印鑑届書の情報の内容がXに関するものであるというべき事情はうかがわれないから、上記情報がXに関するものとして法2条1項にいう『個人に関する情報』に当たるということはできない」。

4. まとめ

 不動産業は、個人の生活に深くかかわる業務です。いきおい、多くの個人情報を取り扱うことになり、特に個人情報保護法に対して、鋭敏な感性をもたなければなりません。公益社団法人全日本不動産協会では、会員の皆様に参照いただけるように、不動産業者として必要な個人情報保護法に関する知識を「不動産業の個人情報保護法に関するガイドライン」としてとりまとめています(公益社団法人全日本不動産協会ウェブサイト「不動産契約書式集」参照)。日常の業務において、必要に応じてご確認いただくことをおすすめいたします。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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