税務相談
月刊不動産2012年8月号掲載
個人・法人間の相当の地代方式による土地賃貸借と相続税評価
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人・法人間で相当の地代方式により土地の賃貸借が行われた後、個人に相続が発生した場合の相続税評価について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.相当の地代方式とは
個人・法人間で土地の賃貸借取引を行う場合は、土地に借地権の設定が行われることから、通常は賃貸借の開始時に借地人から地主に借地権設定の対価として権利金が支払われます。ただし、同族関係者間で土地の賃貸借を行う場合には、権利金を支払わず、権利金を支払った上で支払う地代よりも高めの地代を地主に支払うという取引が行われることもあります。この場合の「高めの地代」を「相当の地代」といい、地主と借地人間で相当の地代をやりとりして行われる土地の賃貸借取引を「相当の地代方式」といいます。
地主と借地人間の地代が相当の地代に該当するかどうかは、借地権が設定された土地の相続発生前3年間における自用地評価額(相続税評価額ベース)の平均額のおおむね6%程度の地代の額かどうかにより判定します。
2.借地権設定時に相当の地代がやりとりされていた場合の借地権の相続税評価
(1)評価の方法
相当の地代方式によった場合、個人である借地権者に相続が発生すると、原則として次の算式により借地権が評価されます(算式中の自用地評価額、借地権割合と各地代の年額は、相続発生時の割合及び金額をいいます)。
(算式)自用地評価額×借地権割合×{1-〔(実際の地代の年額-通常の地代の年額)÷(相当の地代の年額-通常の地代の年額)〕}
(2)通常の地代とは
「通常の地代の年額」とは、その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代の年額を意味します。通常の地代の年額は、周辺地域の地代を調査して求めるのが本来ですが、実務上は「相続発生前3年間の自用地の相続税評価額の平均額×(1-借地権割合)×6%」の算式により簡便的に求めることも行われています。
(3)地価の変動と借地権評価の関係
借地権設定時から相続発生時までに地価が変動した場合、借地権の相続税評価は次のようになります。
①借地権設定時より相続発生時の地価が下落した場合
借地権設定時に比べて相続発生時の地価が下落しているにもかかわらず、地代が減額されず、結果として実際の地代の年額が相当の地代の年額の水準を維持しているような場合には、借地権の評価額はゼロと評価されます。これは、相続発生時において、実際の地代の年額が相当の地代の年額以上である場合は、相当の地代という高い地代がとれている以上、借地権が設定されていることによる土地の経済的価値の下落は生じていないとので、その裏返しとして、借地権者に帰属する借地権はないと考えるためです。
②借地権設定時より相続発生時の地価が上昇した場合
相続発生時の地価が借地権設定時に比べて上昇しているにもかかわらず、地代の増額が行われない場合には、「実際の地代の年額」が「相当の地代の年額」を下回る場合は、実際の地代と相当の地代とのかい離が大きくなる程、借地権の評価額は最大「自用地評価額×借地権割合」まで大きくなります。これは、相続発生時において、実際の地代の年額が相当の地代の年額より少ない場合は、借地権者にいわば「借り得」が生じ、その「借り得」分の財産的価値が借地権として借地権者に帰属すると考えるためです。
3.借地権設定時に相当の地代がやりとりされていた場合の貸宅地の相続税評価
相当の地代方式によった場合、地主に相続が発生すると、借地権が設定された土地(貸宅地)は、その自用地としての評価額から前述2.(1)の算式で求めた借地権の評価額を控除して評価します。ただし、この計算で求めた金額が自用地評価額の80%相当額を上回る場合は、自用地評価額の80%相当額が貸宅地の評価額となります。
地主の相続発生時に相当の地代をやりとりしている貸宅地の場合、前述2.で述べたように借地権の設定により土地の経済的価値が下落していないとすれば、その土地は自用地として評価すべきという考え方もあります。しかし、相当の地代をやりとりしているとはいえ、その土地に借地権が設定されている以上、地主は土地を自由に使用収益できず、借地権の設定されていない自用地に比べて相当の制約があることから、相続税評価上は、自用地としての評価額からその20%相当額を控除した金額により評価するとしています。