法律相談

月刊不動産2014年5月号掲載

仲介会社の越境についての説明義務

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

土地付き一戸建ての中古住宅を購入しましたが、引渡後、境界ブロック塀が完全に隣地に越境していることが判明し、費用をかけてブロック塀を取り壊さざるを得なくなりました。仲介会社は、契約後引渡前に越境の事実を知りながら、そのことを伝えてくれませんでした。仲介会社に対して、損害賠償請求をすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答
    仲介会社に対して、説明義務違反に基づく損害賠償請求をすることができます。なお、売主に対して、瑕疵担保責任の追及をすることも可能です。

    2. 仲介会社の説明義務

    宅建業者には、宅建業法上、仲介を行う場合、法定の重要事項について、契約前に取引主任者をして説明をさせる義務が課されています(宅建業法35条1項)。また宅建業者には善良な管理者の注意をもって事務処理を行う義務がありますから、契約成立後であっても、買主にとって重要な事柄については、買主に対して説明をしなければなりません。宅建業者の説明義務は、民事の観点からは、時期において契約前に限らず、かつ、説明事項に関しても宅建業法に列挙される事項に限られません。いずれもより広い範囲に及ぶわけです。

    3. 事案の概要

    土地付き一戸建て中古住宅の売買において、仲介会社が引渡前に境界ブロック塀の越境を知った場合は、たとえこれを知ったのが契約締結後であっても、買主に越境の事実を説明しなければならないと判断したケースが、東京地裁平成25年1月31日判決です。

    事案は次のとおりです。

    ①買主Xは、平成21年4月30 日、売主Yとの間で、売買代金9,450 万円として、土地付き一戸建て中古住宅の売買契約を締結した(本件売買契約)。仲介会社Zは、XとYの両方から依頼を受けて、仲介業務を行った。

    ②売買契約の時点では、Y からは、XとZに対し、ブロック塀に越境はないとの情報提供がなされていたが、実際には、敷地北側の境界ブロック塀が完全に隣地に越境していた。

    ③同年7月、測量が行われ、測量図(7月測量図)が作成された。7月測量図では、境界ブロック塀が北側隣地内に完全に入り込んでいることが明確になっており、Zも越境の事実を知ることになった。7月測量図を前提に、Yと北側の隣地所有者との間で境界の確認が行われ、7月測量図を添付した筆界確認書が作成された。

    ④Yは、Xに対し、平成21年8月2日、土地建物を引き渡した。Zは、7月測量図をXに交付したが、越境の事実の説明はしなかった。

    4. 裁判所の判断

    裁判所は、越境に関する契約締結時の説明と客観的事実との食い違いが明らかになった以上、仲介会社には、これを買主に説明する義務があったとして、次のとおり、Zの説明義務違反を認めました。

    『Zは、Xと一般媒介契約を締結し仲介を受託した宅地建物取引業者であるところ、本件土地建物の権利関係に疑義が生じるおそれがあることを認識した場合には、これを説明し、本件土地建物に関して適切な情報に基づいて取引をすることができる環境を整える注意義務を負っていたというべきである。
    本件売買契約締結当時は、本件境界ブロック塀が北側隣地に越境している事実が判明しておらず、本件売買契約では、最終代金支払時と同日とされる引渡時までに測量の上、境界を確定させることとなっていたから、この段階で越境の事実を伝えなかったことは債務不履行を構成しない。
    しかしながらZは、本件売買契約締結当時に、越境の事実がないと説明していたにもかかわらず、最終代金決済時までに、本件境界ブロック塀が北側隣地に越境していることが判明し、これを認識したのであるから、当然、権利関係に疑義が生じるおそれがあることを認識したと認められ、特に、売買契約締結時の自らの説明と客観的には齟齬(そご)する事態が生じたのであるから、これをXに説明する義務を負ったというべきである。
    しかるに、Zは、7月測量図を交付した程度で、本件境界ブロック塀が北側隣地に越境している事実を説明したとは認められず、この点につき債務不履行責任は免れない』。

    5. 売主の責任

    本件では、北側境界の越境だけではなく南側境界についても、擁壁が傾斜し、区役所担当職員から倒壊の危険があると指摘を受けるような状態になっていました。そのため、買主Xは、売主Yに対して目的物に隠れた瑕疵があったとして、瑕疵担保責任による損害賠償を請求していました。
    裁判所は、ブロック塀の倒壊により、特に南側隣地の居住者等の生命、身体、財産に対する重大な危害が及ぶことが容易に予想される状況に陥っているというべきであるから、本件擁壁に瑕疵が認められる』として、Y の瑕疵担保責任も肯定しています。

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