法律相談
月刊不動産2023年1月号掲載
二重価格の表示
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
不動産広告を行う場合には、二重価格の表示が禁止されると聞きました。どのような広告表示が二重価格の表示として禁止されるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
二重価格の表示とは、実際に販売する価格(実売価格)に、これよりも高い価格(比較対照価格)を併記して、実売価格に比較対照価格を付すなどの表示です。たとえば、「旧価格5,000万円→新価格4,780万円」という表示がこれに該当します。二重価格の表示は、表示規則に定められた要件を満たす場合に限って許されます。定められた要件を満たさない場合には、表示規則違反です。
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1.広告規制
不動産業者は、不動産の広告を行うに際しては、宅建業法による規制と、不動産の表示に関する公正競争規約(以下、表示規約)による制約を受けます。表示規約は、不当景品類および不当表示防止法(以下、景品表示法)31条1項に基づいて不動産業界が自主的に定めたルールです(表示規約1条)。
宅建業法の規制と表示規約の規制の性格を比較すると、宅建業法では、不動産広告に関する基本的な禁止事項(誇大広告禁止(宅建業法32条)、広告開始時期制限( 同法3 3条)、取引態様明示( 同法3 4 条1項))を定めているのに対し、表示規約では、正しい広告とは、単に誤った表示を行わないだけではなく、消費者が不動産を選ぶ場合に必要と考えられる事項を表示することだという立場から、きめ細かいルールが決められています。二重価格の表示に関するルールも、表示規約に定められています。 -
2.二重価格の表示
二重価格の表示とは、実売価格に、過去の販売価格等の比較対照価格を付すことなどをいいます。不動産事業者は、「物件の価格、賃料または役務の対価について、二重価格表示をする場合において、事実に相違する広告表示または実際のものもしくは競争事業者に係るものよりも有利であると誤認されるおそれのある広告表示」をしてはなりません(表示規約20条)。
過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が許されるかどうかのルールは、不動産の表示に関する公正競争規約施行規則(以下、表示規則)に明記されており(表示規則12条)、次に掲げる①~⑤要件の全てに適合する場合に限って、許されます。① 過去の販売価格の公表日および値下げした日を明示すること
② 比較対照価格に用いる過去の販売価格は、値下げの直前の価格であって、値下げ前2カ月以上にわたり実際に販売のために公表していた価格であること
③ 値下げの日から6カ月以内に表示するものであること
④ 過去の販売価格の公表日から二重価格表示を実施する日まで物件の価値に同一性が認められるものであること
⑤ 土地(現況有姿分譲地を除く)または建物(共有制リゾートクラブ会員権を除く)について行う表示であることこれらの要件のうちのいずれかに適合しないか、または、実際に、当該期間、当該価格で販売していたことを資料により客観的に明らかにすることができない場合には、表示規約違反です。
なお、過去の販売価格と比較する二重価格表示が許されるのは、販売価格の比較表示のみであり、賃貸物件の賃料の比較表示は認められていません。 -
3.表示規約、表示規則の改正
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4.まとめ
不動産広告は不動産業者にとって生命線ともいえる重要な営業ツールですが、不動産広告が適正に行われることは、それぞれの不動産業者にとって顧客の信頼の基盤をなすとともに、不動産業者全体にとっての、信頼の礎でもあります。
しかるに、広告のルールについては、営業への意欲が先走り、軽んじられるケースがないとはいえません。たとえば、いくら注意喚起がなされても、おとり広告がなくならないことは、不動産業界として真剣に受け止めるべき問題です。
本稿で取り上げた二重価格の問題をご確認いただくとともに、みなさまの日常業務において、不動産広告のルールが遵守できているかどうかを、改めて確認していただきたいと思います。