税務相談
月刊不動産2011年7月号掲載
不動産を名義変更した後で取り消した場合の贈与税の取扱い
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人が不動産の名義変更を行った後に取り消した場合の贈与税の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.不動産の名義変更を行った場合の贈与税
(1)財産の名義変更を行った場合の税の原則
個人間で対価の支払がなく財産の名義が変更された場合や、他人名義で財産が取得された場合には、原則として名義人となった者が財産又はその取得資金を贈与により取得したものと推定され、贈与税が課税されます。
(2)不動産の登記持分の変更と贈与税
(1)の原則により、対価の支払がないまま不動産の所有権登記を変更した場合には、変更により不動産持分を取得した人が変更前の所有者から不動産又はその取得資金を贈与により取得したものと推定され、その名義変更が個人間で行われたときには贈与税課税の問題が生じます。
例えば、親が所有する貸家(相続税評価額5,000万円)の持分2分の1を、対価の支払のないまま子の名義に変更して所有権登記をした場合は、親から子へ5,000万円の2分の1に相当する2,500万円の贈与があったと推定され、子に970万円の贈与税がかかるおそれがあります。
2.名義変更を行った後に取り消した場合の贈与税
(1)趣旨
名義変更による不動産の取得が行われた場合であっても、それが当事者の錯誤に基づいて行われたときは、贈与の意思がないわけですから、贈与税課税の対象外とすべきです。
先ほどの1.(2)のケースで、「子に贈与税が970万円もかかると事前に知っていれば、名義変更をしなかった」というのが当事者の真意であれば、贈与の意思がなかったといえ、贈与税の課税はすべきではありません。ただし、錯誤であることを確認できる客観的な事実の申出や証拠の提供が不可能なことが多いため、不動産の名義変更が錯誤によって行われたものであるかどうかを判断することは、実際には極めて困難といえます。
そこで国税庁の通達では、このような場合に贈与税を課税しない際のガイドラインを設けています。具体的には、次の(2)又は(3)の要件に該当する場合には、不動産の贈与がなかったものとされ、贈与税の課税は行われません。
(2)過誤等による名義変更であった場合
不動産の名義変更や他人名義等により不動産を取得する行為が、過誤に基づくものであったり、深く考えず軽率にされたものであったりする場合があります。このような事実が確認でき、かつ不動産に係る最初の贈与税の申告、決定又は更正の日の前に、不動産の所有権登記を変更前に戻すなどして名義を本来の所有者に変更した場合、税務上は贈与がなかったものとして、贈与税は課税されません。
(3)贈与契約の取消しや解除があった場合
不動産の贈与契約の締結後に、その契約が当事者の合意により取消しや解除された場合であっても、税務上、その契約に係る不動産の移転は贈与とされ、贈与税が課税されるのが原則的な取扱いです。
ただし、次の要件をすべて満たし、かつ税務署長が贈与契約に係る不動産を贈与税の課税対象とすることが著しく負担の公平を害すると認める場合には、その不動産の贈与はなかったものとして、贈与税は課税されません。
①贈与契約の取消しや解除が、その贈与をした年の贈与税の申告期限までに行われ、登記などで確認できること。
②贈与をした不動産が贈与を受けた人により売却されたり、担保物件の目的とされたりしていないこと。
③贈与を受けた人が贈与を受けた不動産の家賃や地代といった果実を受けていないこと、また、受けた果実を贈与した人に引き渡していること。
④贈与契約に係る不動産について、贈与をした人又は贈与を受けた人が税金の申告や届出をしていないこと。
(4)贈与契約の取消し等による名義変更が行われた場合
贈与契約の取消し又は解除により、その贈与に係る不動産の名義を贈与者の名義に戻した場合には、税務上、その贈与がなかったものとされるかどうかにかかわらず、その名義変更を贈与として取り扱わず、贈与税の課税をしないこととされています。
贈与契約の取消し又は解除により、その契約に係る不動産の名義を贈与者の名義に戻した場合、その名義変更は贈与契約の取消し又は解除に基因するものであり、当事者の贈与の意思に基づく不動産の移転が行われたことに基づくものではありません。このため、税務上もこのような不動産の名義変更については贈与として取り扱わず、贈与税を課税しないこととしています。