法律相談
月刊不動産2013年7月号掲載
マンション敷地の土地収用
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
敷地内の駐車場の一部が都市計画道路になることが予定されているマンションの一室を仲介することになりました。将来、都市計画道路の計画が実現するときには、道路となる部分はどのように取り扱われるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 回答
道路となる部分(敷地の一部)は、起業者(道路建設事業を行う者)との間で話合いが成立すれば、起業者に売却されます(任意の売買契約による方法)。売却の話合いが成立しないまま道路建設事業が実施されることになれば、事業認定と収用裁決の手続を経た上で、強制的にその所有権が起業者に移り、代執行によって占有が移転されます(収用裁決による方法)。
2. 2つの方法
道路、水道、鉄道、電気、ガスなど、社会基盤の整備を行う公共事業の主体となる者を、起業者といいます。都道府県・市町村や鉄道・電気・ガスなどの事業会社などが、起業者となります。起業者は、公共事業のための土地を、所有者との間の任意の契約によって取得する方法(任意の売買契約による方法)か、あるいは土地収用法に基づく収用裁決に基づいて強制的に取得する方法(収用裁決による方法)かのどちらかによって、取得します。
3. 任意の売買契約による方法
土地を公共事業に用いるといっても、土地所有者の意思を無視して、強制的にその権利を剥奪するのは、望ましいことではありません。そこで公共事業用地を取得するにあたっても、通常まずは強制力を用いる手段を避け、任意に土地を取得するための交渉が行われます。話合いがまとまれば、売買契約が締結され、マンション敷地の一部が、道路のための用地となります。
もっとも、マンション敷地の権利は、原則的に専有部分との分離処分が禁止されていますし(区分所有法22条1項)、また区分所有者の共有で、しかも提供される土地は分筆の一部分です。そこで、マンション敷地の一部を起業者に売却するにあたっては、①分離処分の禁止を解くための総会決議(特別決議)、および、②共有者全員の合意による敷地一部の分筆が必要となります。
4. 収用裁決による方法
土地所有者と起業者との間で話合いがまとまらずに事業が実施される場合には、起業者は、土地収用法に基づく収用裁決に基づき、土地を取得することになります。収用裁決は、権利者の意思にかかわらず、強制的に行政処分によって権利を剥奪し、起業者に土地所有権を付与するものです。①「事業認定」、②「収用裁決」、③「代執行」の3 つのステップから成り立ちます。
①事業認定
収用裁決による用地取得には、まず起業者が、事前説明会を行った上で、認定庁(認定に関する処分を行う機関、国土交通大臣または知事)に対し、事業認定を申請します(土地収用法17 条・18 条)。認定庁において、事業に公益性や妥当性があるとの判断に至ると、他人の財産を収用する必要がある事業であることが認定されます(同法20 条)。
②収用裁決
事業認定を受けた事業につき、起業者からの申請を受け、収用委員会が審理を行い、収用裁決(権利取得裁決と明渡裁決)を行います(同法47 条・47 条の2)。収用委員会は各都道府県に置かれる行政委員会(行政機関)であり、公正中立な立場で裁決を行う権能を与えられています。
私有財産を公共のために用いるに際しては、「正当な補償」(憲法29 条)が必要です。収用裁決においては、収用委員会が裁決によって補償金の額を定めます。
③代執行
収用裁決(明渡裁決)が出されたにもかかわらず、明渡義務が履行されず、起業者が土地を利用できないときには、代執行がなされます。代執行は、行政処分によって命ぜられた義務が履行されない場合に行政庁が義務者のなすべき行為をなし、または第三者になさしめ、その費用を義務者から徴収する行政上の強制執行の手段です。土地収用法は、起業者の請求により行政代執行法の定めるところに従い都道府県知事が代執行を行うことができるものとしています(同法102 条の2 第2 項)。
5. まとめ
マンション敷地について、駐車場や空地部分などが都市計画道路予定地と重なっている場合には、道路建設の事業計画が進み、計画実現の段階に至ると、事業のための用地提供が求められます。宅建業者としては、売買契約締結前に、対象物件の一部にそのような利用計画があることを理解してもらわなければなりません。都市計画における道路などの都市計画施設に関しては、宅建業者が契約締結前に購入者に説明しなければならない重要事項ともなっています(宅建業法35 条1 項2 号、同法施行令3 条1 項、都市計画法53 条1項、同法65 条1項など)。