法律・税務・賃貸Q&A

マンション内の別のフロアでの死傷事件

渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所 弁護士

質問

 私は7階建てマンションの5階の住戸を購入しましたが、売買契約の3年2カ月前に、4階の住戸の室内で傷害事件があり、その犯人がマンションの正面玄関付近で自殺した事件があったことを、購入後に知りました。売買契約を解除することができるでしょうか。

月刊不動産2018年11月号掲載
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回答

1.解除できない

 売買契約を解除できないと考えられます。東京地判平成15.9.19(判例秘書LLI05833820)では、ご質問のような状況について、隠れた瑕疵であることが否定されています。

 マンション内での自殺が売買契約に与える影響についての裁判所の判断をみると、売買物件内ではなく、共用部分やほかの部屋の自殺を原因として契約解除が認められた例は、これまでありません。

2.売買における心理的欠陥

 売買契約において、引き渡された目的物に瑕疵があった場合には、売主は瑕疵担保責任を負います(民法570条、566条1項。改正後の新民法では、瑕疵担保責任ではなく、契約不適合責任)。瑕疵とは、契約上備えるべき種類、品質を備えていないことであり、「目的物が建物である場合には、建物として通常有すべき設備を有しないなど物理的な欠陥があるときのほか、建物を買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の心理的負担を負うべき事情があり、これがその建物の財産的価値(取引価格)を減少させるときも、当該建物の価値と代金額とが対価的均衡を欠いていることから、同条にいう瑕疵がある」とされています(福岡高判平成23.3.8、判時 2126号70頁)。

3.東京地判平成15.9.19

(1)事案の概要

 事案の概要は次のとおりです。

 ①買主Xと売主Yは、平成14年2月9日、代金2,500万円で、7階建てマンションの5階の1部屋(3LDK、本件建物)の売買契約を締結した。

 ②Yは、平成4年、本件建物を購入し、妻、長男および二男の家族4人で生活していたが、2人の息子が中学生となり、手狭になったことから、その買換えを考え、本件建物を売却したものであった。

 Xは、長男の幼稚園入園を機に、多少なりとも広い所に転居したいと考え、幼稚園への通

園が可能な圏内で物件を探していたところ、本件建物が売りに出ていることを知り、これを購入、同14年4月、本件建物に入居し、家族3人の生活を始めていた。

 ③ところで、このマンションでは、平成10年11月28日、4階の1部屋に居住していた女性の長女の夫(犯人)が、別れ話のもつれから、この部屋の中で、居住者の女性とその長女に対して包丁で切り付けた後、マンションの正面玄関脇で自らの腹部を刺して自殺を図り、病院に搬送されたが、出血多量で死亡するという事件(本件事件)が起こっていた。女性は、同室のベランダから転落、病院に運ばれたものの、まもなく死亡し、また、長女も重

傷を負っていた。

 ④売買契約締結後に本件事件を知ったXは、過去に本件マンションにおいて本件事件が起こったことは本件建物の隠れた瑕疵であるとして、契約解除を通知し、売買代金の返還と損害賠償を求めて、訴えを提起した。

 ⑤裁判所は、本件事件が隠れた瑕疵であることを否定し、Xの請求を認めなかった。

 

(2)裁判所の判断

 「本件売買契約において本件事件がいかなる意味を有するかについて検討するに、本件事件は、犯人が本件マンションの正面玄関脇で自殺を図り、また、その妻が3階の踊り場で倒れていたところを救助されるなど、空間的には本件マンションの共用部分ないしこれに類する場所にも及んでいるが、犯人による加害行為そのものの現場は、本件建物とは異なる階にある○○○号室であり、したがって、原告らの寝食の場である本件建物と本件事件との関係は、直接的なものではなく、本件マンションの共用部分ないしこれに類する場所を介したものにとどまることが認められる。また、居住用の建物内あるいはその近傍で殺人事件等があったとしても、時が経つにつれて人の記憶が薄れることなどに伴い、それを忌まわしいと感じる度合も徐々に希薄になっていくものと考えられるところ、本件事件と本件売買契約との間の約3年2か月という時間は、その意味では無視することのできない時間の経過であるといわなければならない。

 以上を併せ考えると、本件売買契約締結時、本件建物に係る本件事件に起因する主観的・心理的欠陥が、通常一般人において、住み心地のよさを欠き、居住の用に適さないと感じることが当然であると判断される程度に至っているとはいい難い。

 したがって、本件マンションにおいて本件事件があったという事実は、本件売買契約において、本件建物の隠れた瑕疵には該当しない」。

4.まとめ

 過去の事件・事故について、通常一般人において、そのような事件があったことを知れば、居住の用に適さないと感じることが当然であると判断される程度に至っていれば瑕疵になることは周知ではありますが、どの範囲の事件・事故が瑕疵になるのかは、明確ではなく、先例から判断せざるを得ません。本稿で紹介した裁判例は、不動産業者の日常業務においても、参考になると思われます。

 

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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