賃貸相談
月刊不動産2005年6月号掲載
マンションの専有部分賃貸と管理規約の効力
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
所有するマンションの専有部分を賃貸しているのですが、このマンションの管理規約は賃借人にも守らせたいと思います。管理規約の建物利用についての制約は専有部分の賃借人にも効力があるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 建物の区分所有に関する法律と管理規約
マンションのような集合住宅は、多数の住人が共同して一棟の建物の中に設けられた各々の「専有部分」で生活しています。同時に、廊下や階段等のいわゆる「共用部分」についてはマンションに居住する皆が使用するのですから、当然ながら、マンションの管理規約は、そのマンションで生活する者全員が守る必要があります。
こうしたマンション等の集合住宅に関する法律関係については、「建物の区分所有等に関する法律」(以下、「区分所有法」と略称)によって定められています。
(1) 管理規約に関する区分所有法の規定
区分所有法は、マンションの規約について定めており、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規定しています。(2) 管理規約の設定、変更及び廃止に関する区分所有法の規定
区分所有法は、規約の設定、変更及び廃止については、「規約の設定、変更及び廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更及び廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」と規定しています。これらの規定をみると、一見、管理規約は「区分所有者相互間の事項」についてのものだとすると、区分所有者に対してしか効力がないかのようにみえます。
また、規約の設定、変更及び廃止についても、区分所有者以外の者は、集会に参加したり、発言できないようにもみえます。しかし、マンションの専有部分を賃貸した場合には実際には賃借人がそこで生活することになります。マンションのような区分所有建物は、多数の住人が共同して生活するのですから、規約が専有部分の賃借人に対しても効力が及ばないと不都合です。また管理組合の集会で決議されたことを賃借人が守らなくともよいとすると、やはり不都合を生じます。そこで、区分所有法は、賃借人等に対しても、マンションの管理規約の効力が及ぶ旨の規定を設けているのです。
2. 管理規約・集会における決議の効力の及ぶ範囲
区分所有法は、
「A:規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継 人に対しても、その効力を生ずる。 B:占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約
又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」(区分所有法46条)
と定めています。この区分所有法46条Bの「占有者」とは、区分所有建物の専有部分の「占有者」のことです。賃借人は、専有部分を使用収益しているのですから、「占有者」に該当します。
したがって、マンションの専有部分の区分所有者が部屋を賃貸した場合、賃借人は、区分所有法にいう「占有者」に該当しますから、区分所有法46条Bに基づいて、建物とその敷地、附属施設の使用方法については、区分所有者と同じ義務を負うわけです。
したがって、賃借人は、自分は区分所有者ではないのだから、規約に拘束されるいわれはないとは主張できないのです。3. 賃借人の集会への出席・意見陳述
上記のとおり、賃借人は、建物や敷地等の「使用方法」に関する限り、管理規約や集会の決議に拘束されることになりますので、反面において、賃借人は、集会において、「会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には、集会に出席して意見を述べることができる。」(区分所有法44条1項)と定められています。ただし、この「利害関係」とは、あくまで法律上の利害関係の意味ですから、会議の目的が「使用方法」に関するときは、賃借人は会議に出席して意見を述べることができますが、管理費の増額とか、共用部分の修繕決議や建替え決議等のような場合には、賃借人には法律上の利害関係は認められません。