法律相談
月刊不動産2013年9月号掲載
ネット利用料金
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
私のマンションでは共用部分にネット利用のための設備があり、管理規約では、すべての区分所有者がネット利用料金を負担すると定められています。けれども、私はネットを利用していません。それでもネット利用料金を支払わなければならないでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1. 回答
ネット利用料金が管理規約に定められている以上、区分所有者は、ネット利用の有無を問わず、料金を支払わなければなりません。
2. マンションにおけるネットの利用
さて、分譲マンション内でインターネットを利用するには、かつては、個々の居住者がプロバイダーとの間で契約をした上、自らの費用をもって、共用部分を通して専有部分まで配線を施すという方法が一般的でした。
しかし、現在では日常生活にネットの利用が不可欠になっています。共用部分にネット利用のための設備を準備して各区分所有者が自由にこれを利用できるようにしておき、ネット利用料金は全区分所有者が負担をする、という方式をとる分譲マンションも多くなっています。
もっとも、なかにはネットを利用しない居住者もいます。管理規約でネット利用料金を区分所有者負担と定めた場合、不満が生じる可能性も、ないとはいえません。
3. 共用部分の保守・管理と
ネット接続回線契約
ネット利用料金を管理組合が区分所有者Aに請求をしたところ、ネットを利用していないAが、全区分所有者にネット利用料金を負担させる管理規約の定めは無効であるとして請求を拒んだ事案に関する裁判例が公表されています(広島地裁平成24 年11 月14 日判決)。
裁判所は、次のとおり判示して、管理組合の請求を肯定しました。
『インターネットサービスに係る物理的なLAN 配線機器等の設備そのものは、マンションの区分所有者の共用部分であるということができるから、その保守、管理に要する費用は、マンションの資産価値の維持ないし保全に資するものであるということができ、したがって、その費用は各区分所有者が一律に負担すべきものである。
これに対し、マンションの各戸に対してインターネットサービスを提供するために締結されたネット接続回線契約やプロバイダー契約に基づき発生する費用は、Aが主張するように、インターネットを実際に利用していない者にとって負担すべき根拠がないようにも思える。
しかし、そのようなサービスがマンションの全戸に一律に提供されているということは、マンションの資産価値を増す方向で反映されるから、これらに要する費用についても、マンションの資産価値の維持ないし増大に資するものといえ、その観点からは、各区分所有者が、本件サービスの利用の有無にかかわらず、その費用支出による利益を受けているといえる。』
4. 一律負担の衡平性
『また、インターネットサービスの利用の有無を考慮して戸別に利用料金を定めることになれば、マンションの各戸における本件インターネットサービスの利用状況を戸別に確認する必要が生じることになるが、インターネットサービスは、マンションの各戸が個別に回線契約やプロバイダー契約を締結することや複雑な設定をすることなく利用できるサービスであるため、実際の利用の有無を確認するために新たな人的、物的コストが発生してしまうことを避けられないという問題があり、さらには、その確認に要するコストを誰にどのように負担させるべきかという問題や、いわゆるただ乗りをする区分所有者への対処という派生的な問題が新たに発生するおそれがある。
また、インターネット接続業者との契約内容にかかわらず、ネット設備の保守、管理費用と、接続そのものに要する費用を分けて各戸が負担すべき費用を算出しなければならないという問題も生じてくる。そうすると、インターネットサービスの利用の有無を問わず、ネット利用料金を一律に徴収する旨を定めることには一定の合理性があるといえる。加えて、インターネット利用料金は、月額2,835 円であって、これにはネット接続回線契約に要する費用だけではなく、マンションのインターネット設備の保守、管理に要する費用も含まれていることからすれば、本件インターネットサービスを利用していない区分所有者にとってみても、不相当に高額であるとはいえない。
これらの事情を総合すれば、本件インターネットサービスの利用の有無を考慮することなく一律にネット利用料金の支払を負担すべき旨規定している本件管理規約の規定は、区分所有者間の利害の衡平が図られていない故に無効であるとまではいえない。』
宅建業は、人々の生活に深くかかわる業務です。単に土地や建物の状況だけではなく、人々の生活を支えるインフラの仕組みを理解しておかなければならない場面も少なくありません。