賃貸相談

月刊不動産2014年7月号掲載

アパートの入居者による無断駐車

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

私が経営するアパートの入居者の一人が敷地内に自動車を駐車させて他の入居者に迷惑をかけているとの通報がありました。やめさせることはできるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 建物賃貸借と敷地利用

    アパートの部屋を賃貸した後に、入居者の一人がアパートの敷地内に自動車を長期間にわたり駐車させることがあります。家主が無断で駐車しないよう注意すると、入居者から、敷地のついていない建物はあり得ないのだから、敷地も利用できるという前提でアパートの賃貸がなされているはずだ、車社会で人が出入りするには自動車を使用するのは当たり前の時代なのだから駐車は当然であるかのように言われて、家主の注意に耳を貸さないというケースもあり得ます。この問題はどのように考えるべきなのでしょうか。

    民法上、建物と土地とは別個の不動産とされており家賃は建物の使用収益の対価と考えられています。したがって、建物の賃貸借契約を締結しているからといって、賃借人は当然に敷地について賃貸借契約を締結したことにはなりませんし、土地について賃借権を取得するわけでもありません。建物賃貸借契約を締結した場合、法律上、賃貸借の目的物が建物のみであることは明らかですが、かといって、敷地を一切通行できない建物は観念することができません。
    賃借人は、賃貸借契約を締結したのは建物についてのみであり、土地を借りる契約は締結してはいませんが、敷地を利用することなく建物を使用することは一般的には困難なことですから、建物賃貸借契約という契約の性質上当然に、建物を使用するという目的の範囲内においては、それに伴う敷地の利用が可能だと解されてきました(最高裁判所昭和38 年2月21 日判決等)。要するに、建物賃貸借契約においては、建物の敷地自体は賃貸借の目的物とは解されず、賃借人は、建物を利用する上で必要な範囲で、事実上の使用が許容されるだけであると考えられているのです。

    2. 建物使用の目的の範囲内の使用

    問題は、何をもって、建物使用の目的において必要な範囲内の使用であると判断するのかということです。

    一般的には、一戸建ての建物の賃貸借契約の場合には多くは塀や垣根等の囲障で囲まれ、その建物のための敷地の範囲が区画されています。

    このような場合には、その塀や垣根等の囲障で区画された範囲内の土地が、建物使用の目的において必要な範囲ということになります。その敷地は、通常、一戸建ての建物の賃借人以外の者が使用することが想定されず、一戸建ての建物の使用の目的からして、その敷地が建物使用の範囲を超えたかなりの広さを有する広大地でない限り、建物使用に伴う使用をすることが許容されていると考えられるからです。

    これに対し、アパート等の共同住宅の一室を賃貸するような場合には、その敷地が塀や垣根等の囲障で区画されていたとしても、その一室の賃借人が区画された敷地全体を一人で使用することが、建物使用の目的において必要な範囲内の使用ということにはなりません。仮に、その敷地がアパートの各賃借人の賃借部分に応じて、それぞれが利用できるように区分されている場合には、その区分にしたがって賃借人は敷地を利用することが可能です。そのような区分がなされているということは、賃借人が当該区分された敷地を使用することは、建物を使用するという目的の範囲内と考えられるからです。

    しかし、そのような区分がなされていない場合には、賃借人が当然に区画されたアパートの敷地内を自由に使用できると考えることはできません。賃借人の一人が敷地を自己の自動車の駐車場として使用するということは、同じアパートの他の入居者の使用の妨げになり得るもので、そのような使用が、建物使用の目的において必要な範囲内であるとはいえないからです。

    3. 必要な使用の範囲を超えている場合の措置

    御質問のケースのように、アパートの入居者の一人のみが敷地を自己の自動車の駐車場として使用しており、それが他の入居者の使用を妨げるような場合には賃借人には土地の賃借権等の権利が発生しているわけではない以上、そのような事実上の使用は許容されないことになります。

    このような場合には、賃貸人としては、契約外の使用であるとして、入居者に対し、駐車場の使用をやめるよう請求することができます。しかし、これを理由に賃貸借契約を解除できるかについては、信頼関係を破壊しているか否かという判断が必要になりますので通常では難しいと考えられます。

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