税務相談
月刊不動産2007年6月号掲載
「マイホームを譲渡して買換えしない」場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の延長(平成19年度税制改正・続編)
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
平成19年度の税制改正で、「マイホームの譲渡の際に譲渡損失がある場合の譲渡所得の特例」が3年延長されたということですが、「マイホームを買換えする場合の譲渡損失の特例」とどのような違いがあるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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マイホームの譲渡損に関する特例には、買換えを要件とするものと買換えを要件としないものがあります。前月号では買換えを要件とする制度を解説しましたので、今回は買換えを必要としない制度について解説します。
1.特例のあらまし
(1)制度の概要
土地建物等に係る譲渡所得の計算上生じた損失については、他の所得との損益通算が禁止されています。ただし、居住用不動産(マイホーム)の譲渡損失については、一定の要件の下で損益通算や翌年以降の損失の繰越控除を認める特例が設けられています。
(2)適用要件
個人が平成21年12月31日までの間に、譲渡年の1月1日において所有期間が5年を超える居住用不動産を譲渡して譲渡損失が生じる場合には、その譲渡損失の金額のうち一定の方法により計算した金額を、その年の他の所得と損益通算することができます。また、その損失を控除しきれなかった場合は、一定の要件の下で譲渡年の翌年以後3年間繰り越すことにより、各年分の所得から控除することができます。
(3)譲渡損失の金額の計算
(2)の譲渡損失の金額については、その譲渡に係る契約締結日の前日時点の譲渡資産に係る住宅借入金等の金額の合計額から、その譲渡資産の譲渡の対価の額を控除した残額を限度とします。
2.適用対象となる譲渡資産
適用対象となる譲渡資産は、個人が有する家屋又は土地等で、譲渡年の1月1日において所有期間が5年を超えるもののうち一定のものをいいます(具体的な内容は、前月号で解説した「譲渡資産の要件」と同じです)。
3.適用対象となる住宅借入金等
この特例の対象となる譲渡資産に係る住宅借入金等とは、譲渡者が金融機関や勤務先から借り入れた、償還期間が10年以上の割賦償還により返済される一定の借入金等(利息に対応するものを除く)をいいます。
4.適用除外となる場合
(1)損益通算と繰越控除の適用を受けることができない場合
(a)損益通算しようとする年の前年以前3年以内の年において生じた他の居住用不動産の譲渡損失の金額について、この特例の適用を受けている場合
(b)譲渡資産の特定譲渡をした年の前年又は前々年において行った資産の譲渡について、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除又は特定の居住用財産の買換え等の場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用を受けている場合
(c)譲渡資産の特定譲渡をした年又はその年の前年以前3年内における資産の譲渡について、「マイホームの買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」(前月号参照)の特例の適用を受ける又は受けている場合
(d)親族等に対するマイホームの譲渡である場合
(2)繰越控除の特例の適用を受けることができない場合
特定居住用不動産の譲渡損失の金額が生じた年の翌年以降3年以内の各年分のうち、合計所得金額が3,000万円を超える年分
5.住宅ローン控除との併用
この特例は、住宅ローン控除との併用が認められています。
6.マイホームを買い換えた場合の譲渡損失特例との相違点
同じマイホームの譲渡損に係る特例である「マイホームの買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」と比較すると、この特例には次のような特徴があります。
(1)譲渡資産を譲渡後、買換資産を取得する必要はありません。
(2)譲渡資産に係る住宅借入金等につき、譲渡資産の譲渡価額を上回る残高が必要です。
(3)譲渡損失の金額は、「住宅借入金残高-譲渡価額」が上限となります。