賃貸管理ビジネス

月刊不動産2020年11月号掲載

DIY賃貸で入居者満足度を上げる

今井 基次(株式会社ideaman 代表取締役)


Q

長引くコロナ禍で、入居者が自宅にいる時間が増えたからか、プチリノベーションの要望が多数挙がってきています。しかし、オーナーは建物に手を入れる(修繕する)とお金がかかるため、あまり乗り気ではありません。コストや手間がかからず、入居者の要望を叶えられる方法は何かありませんでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     オーナーに許可を得て、入居者にDIY(簡単な日曜大工)を推奨してみてはいかがでしょうか。最近では賃貸のお部屋を傷つけず、簡単に施工ができる商品もたくさん出ています。入居者自らが簡単に思いどおりの部屋にできるため、入居者満足度も上がりますし、オーナーが積極的に関わる必要もありません。

  • 1. テレワークを快適にする環境を整える

     コロナ禍で、世の中の働き方が一変した。日本ではあまり進まなかったテレワークの導入が一気に進み、特にコロナ感染者の多い首都圏では、業種を問わず在宅で働くS O H O(ソーホー:Small Office/HomeOffice)環境が急速に必要とされている。SOHOといっても、そもそも首都圏の賃貸住宅は地方に比べて平均専有面積が狭いため、テレワーク環境をどのように作れば快適に仕事ができるのかが課題となる。そこで、まずオーナーとしてできることは、「インターネット」環境を整えること。入居者が独自に手配をして各キャリアやプロバイダ契約をする方法もあるが、空室に関しては「インターネット無料」の環境をはじめから作ることで、入居者が働きやすい環境が得られるのではないだろうか。そもそも全国賃貸住宅新聞社が調査をしている「入居者に人気の設備ランキング」では、「インターネット無料」がここ数年でずっと上位を維持しているため、これを機に管理会社はオーナーに設置提案をしてみてはどうか。

  • 2. DIYを上手に活用

     もう1つ重要な環境といえば、ワークスペースだ。シングルで1LDKやそれ以上の間取りに住むことができればよいのだが、首都圏の住宅事情からすれば、通常は1K程度の間取りのため、たくさんのものを置くことがそもそも難しい。ましてや「机」や「椅子」などを置けるスペースを確保することは容易とはいえない。仮に置けるとしても、いつまで使うかわからない机や椅子を買ってしまえば、テレワークが解除された後は邪魔なものになってしまう。そこで注目したいのがDIYだ。賃貸住宅を一切傷つけることなく、日曜大工程度の作業で自分が使いやすい環境を作ることが可能だ。例えば、2×4(ツーバイフォー)の木材で「ディアウォール」や「ラブリコ」などのキットを使い、デッドスペースや使われていない壁面をうまく活用することができる。ホームセンターに行けば、1万円もかからず棚と簡単なテーブルが出来上がる。実際に私もやってみたが、ホームセンターで木材をカットしてもらえば、シロウトでも2時間程度あれば組み立てられる。
     また、D I Yであれば、必要がなくなったときに木材を細かく切って「燃えるゴミ」として廃棄することができるため、入居者がいざ引っ越すとなっても無駄なお金がかからない。

  • 3. 消費者志向を強めれば空室対策にも

     昨今、テレビ番組でも頻繁に取り上げられているDIYは人気が高く、自らが思いどおりのライフスタイルに近づけるように部屋をアレンジできる。D I Y のS N Sも存在しており、「Pinterest(ピンタレスト)」というサイトでは、ライフスタイルに応じた様々な事例が掲載されている。
     賃貸住宅はそもそも供給者が箱を提供する「プロダクトアウト(生産者志向)」であったが、入居者はもっと多様性を求めている。そのためには「マーケットイン(消費者志向)」を強める必要がある。入居者の要望をしっかりと聞き出し、オーナーに伝え、希望を叶えることで入居者満足度が高まるのだから、結果として空室対策につながる。そもそも入居者は、自らが住みたいようにアレンジした部屋を手放すのは惜しいはずだ。自らのために住みやすい環境を作ったのだから、それを手放してまで他に行く理由がなければそこに住み続けるであろう。
     少し意味合いは違うが、国土交通省も「DIY型賃貸借」を勧めている。これはそもそも空き家活性化のために、「入居者に自由に使わせる」ことで需要を喚起することが目的であるが、根本の考え方は同じである。現に市場調査などをしていると、築年数が古いアパートなのに、ずっと満室という物件がある。これらは「退去が面倒」という入居者心理と、もう1つは自由に使っていい( 汚したり傷つけたりしてもオーナーに気を遣わなくていい)ため、ある意味賃借人は快適に生活できるのだ。
     入居者の要望を拾ってあげることで、結果として入居者満足度の向上や空室対策につながる。管理会社としては、オーナーに理解を求めつつ、入居者にDIY提案をしてみるのもよいのではないだろうか。

今回のポイント

●コロナ禍において、快適なテレワーク環境を作ることが急速に必要とされているなか、まずオーナーとしてできることはインターネット環境を整えることである。
●1K程度の間取りで机や椅子を置く場合、テレワーク解除後は邪魔になってしまうため、DIYを活用して棚や机を組み立てるとよい。
●全国賃貸住宅新聞社による「入居者に人気の設備ランキング」では、「インターネット無料」がここ数年でずっと上位を維持しているため、管理会社はオーナーに設置提案をしてみてはどうだろうか。
●DIY人気が高い状況のなか、国土交通省も「DIY型賃貸借」を勧めており、部屋のアレンジ等、入居者の要望を叶えることで入居者満足度が高められる。結果として空室対策にもつながる。
●築年数の古いアパートでも、入居者の要望どおりに自由に使えると、賃借人は快適に生活ができるため、オーナーに理解を求めたうえで、入居者にDIY提案をしてみてはどうだろうか。

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